モール法は、硝酸銀を用いて塩化物イオンを定量する沈殿滴定法の一つです。実験ではクロム酸カリウムを指示薬として加え、赤褐色のクロム酸銀が生成したところを終点として判断します。
しかし、終点を過ぎた後にさらに少量の硝酸銀を加えた場合、「クロム酸銀が先にできるのか」「塩化銀がさらに沈殿するのか」という疑問を持つことがあります。この記事では、モール法における沈殿生成の順序と、終点後の変化について詳しく解説します。
モール法で起こっている沈殿反応
モール法では、試料中の塩化物イオン(Cl⁻)を硝酸銀(AgNO₃)で滴定します。硝酸銀を加えると、まず銀イオン(Ag⁺)が塩化物イオンと反応し、塩化銀(AgCl)の白色沈殿を生成します。
反応式は以下のようになります。
Ag⁺ + Cl⁻ → AgCl↓
試料中に十分な量の塩化物イオンが存在する間は、加えた銀イオンはほぼすべて塩化銀の生成に使われるため、クロム酸銀は生成しません。
なぜクロム酸銀が終点の目印になるのか
モール法では、試料に少量のクロム酸カリウム(K₂CrO₄)を加えておきます。塩化物イオンがすべて沈殿した後、余った銀イオンが存在するとクロム酸イオン(CrO₄²⁻)と反応してクロム酸銀(Ag₂CrO₄)を作ります。
反応式は以下の通りです。
2Ag⁺ + CrO₄²⁻ → Ag₂CrO₄↓
クロム酸銀は赤褐色の沈殿であるため、この色が現れた時点をモール法の終点として判断します。
終点後に硝酸銀を少量加えた場合の変化
モール法の終点では、すでに塩化物イオンはほぼ完全に沈殿しています。しかし、実際には溶液中には非常にわずかな量の塩化物イオンが残っており、また塩化銀との平衡も存在しています。
そのため、終点直後にごく少量の硝酸銀を追加した場合、まず起こるのは残っている塩化物イオンとの反応です。つまり、追加された銀イオンの一部は再び塩化銀の生成に使われます。
ただし、すでに塩化物イオンの大部分は消費されているため、最終的には銀イオンが余り、クロム酸銀の赤褐色沈殿が増加します。
塩化銀とクロム酸銀はどちらが先に沈殿するのか
沈殿の順番は、単純に溶解度積(Ksp)の小さい順だけで決まるわけではありません。その物質を作るために必要なイオン濃度が関係します。
塩化銀の溶解度積は非常に小さく、少しでも銀イオンと塩化物イオンが存在すれば沈殿しやすい物質です。一方、クロム酸銀も難溶性ですが、クロム酸イオンの濃度が十分高くならないと沈殿しません。
そのため、モール法では滴定中は塩化銀が優先的に生成し、塩化物イオンがなくなった後にクロム酸銀が生成するという流れになります。
終点後の液の色はどう見えるのか
終点後にさらに少量の硝酸銀を加えると、理論上はクロム酸銀の赤褐色がより濃くなっていきます。同時に、残存していた塩化物イオンがあれば少量の白色塩化銀も生成します。
しかし、実験で観察される主な変化は赤褐色沈殿の増加です。これは、終点を過ぎた状態では銀イオンがクロム酸イオンと反応できる状態になっているためです。
つまり、「終点後に追加した硝酸銀によって、まずクロム酸銀だけが突然できる」というよりは、残存する塩化物イオンとの反応を経ながら、最終的にクロム酸銀の生成が目立つようになると考えるのが正確です。
まとめ:モール法では塩化銀が先、クロム酸銀が後に生成する
モール法では、硝酸銀を加えるとまず塩化物イオンと反応して塩化銀の白色沈殿が生成します。塩化物イオンがほぼなくなった後、余った銀イオンがクロム酸イオンと反応してクロム酸銀の赤褐色沈殿を生じます。
そのため、終点後にさらに少量の硝酸銀を加えた場合も、微量の塩化銀生成が起こる可能性はありますが、観察される主な変化はクロム酸銀の赤褐色が濃くなることです。
モール法の理解では、「沈殿しやすさ」だけではなく、「そのイオンがどれだけ残っているか」という濃度の考え方が重要になります。


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