ギャンブルや投資の場面では「期待値が高い選択肢を選ぶべき」とよく言われます。しかし、期待値だけで考えると有利な選択肢であっても、人間の直感では別の選択をしたくなることがあります。
例えば、90%の確率で1000万円を得られる選択肢と、10%の確率で1億円を得られる選択肢では、後者のほうが期待値は高くなります。それでも多くの人が前者を魅力的に感じるのには、人間特有の心理的な理由があります。
まずは2つのギャンブルの期待値を比較する
期待値とは、ある結果が長期的に平均するとどれくらいの価値になるかを表す数値です。計算すると、それぞれの選択肢の違いが分かります。
90%の確率で1000万円を得る場合の期待値は「1000万円×0.9」で900万円です。
一方、10%の確率で1億円を得る場合の期待値は「1億円×0.1」で1000万円になります。数学的には後者のほうが100万円分有利です。
人間は期待値だけで意思決定していない
しかし、現実の人間は期待値だけを基準に判断しているわけではありません。心理学では、人は確率や金額をそのまま合理的に評価せず、主観的な価値として判断すると考えられています。
例えば、1000万円を90%の確率で手に入れることは「ほぼ確実に人生が変わる」と感じます。一方で、1億円を10%の確率で得る選択肢は「ほとんど当たらない」と感じやすくなります。
つまり、人間は数字上の期待値よりも「成功する可能性の高さ」や「失敗したときの後悔」を重視する傾向があります。
確率を正確に判断できない心理的な特徴
人間は低い確率を実際より大きく感じ、高い確率を実際より小さく感じることがあります。これは行動経済学で研究されている「確率加重」と呼ばれる考え方です。
10%という数字は数学的には十分大きな確率ですが、日常生活では「10回に1回しか起きない」と聞くと、かなり遠い出来事に感じられます。
反対に90%という数字は「ほぼ成功する」と感じられるため、安心感があります。この安心感が、期待値以上に選択へ影響します。
損失回避によって安全な選択を好む
人間には「得をする喜び」よりも「損をする苦痛」を強く感じる傾向があります。これは損失回避と呼ばれる心理的特性です。
例えば、90%の確率で1000万円を得る選択肢では、失敗する可能性は10%しかありません。しかし、10%の確率で1億円を狙う場合、90%の確率で何も得られないことになります。
期待値では後者が有利でも、「ほぼ確実に何も得られない」という未来を避けたいという心理が働きます。
実際の人生では期待値だけでは決められない
数学的な期待値が重要なのは、何度も同じ試行を繰り返せる場合です。例えば、企業が大量の商品を販売する場合や投資家が長期間運用する場合は、期待値が大きな意味を持ちます。
しかし、人生で一度しか選べない大きな決断では、単純な期待値だけでは判断できません。
例えば、現在の生活を大きく左右する1000万円と1億円の選択では、確実性や失敗した場合の影響も重要な判断材料になります。
期待効用という考え方
経済学では、単純な金額ではなく「その人にとっての価値」を考える期待効用という考え方があります。
同じ1000万円でも、すでに資産が十分ある人と、生活に困っている人では価値が違います。また、1億円を得る可能性があっても、そのために大きな不安を抱えるなら、本人にとっての価値は下がる場合があります。
そのため、人が前者の90%で1000万円を得る選択肢を好むのは、単なる計算ミスではなく、自分の幸福や安心感を含めて判断している結果とも言えます。
まとめ
90%で1000万円、10%で1億円という選択では、期待値だけを見ると後者が有利です。しかし、人間は期待値だけで行動するわけではありません。
成功する確率の高さ、失敗への不安、後悔を避けたい気持ち、得られる安心感などを総合的に判断しています。
数学的に正しい選択と、人間が心理的に納得できる選択は必ずしも一致しません。リスクを伴う判断では、期待値だけでなく、自分にとっての価値や許容できる不確実性を考えることが重要です。


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