漢文の返り点は、単語の意味だけでなく、文の構造を理解しなければ正しく付けることが難しい場合があります。特に「以A為B」「欲~」「知~」のような句形が重なった文章では、どこから読むべきか迷いやすくなります。この記事では、『遼史』巻七十七「耶律安摶伝」に見られる「大王旣知先帝欲以永康王爲儲副」の部分を例に、返り点の考え方と書き下し文までの流れを解説します。
対象となる漢文の構造を確認する
問題となる部分は「大王旣知先帝欲以永康王爲儲副」という文です。まず、それぞれの語の意味を確認すると、以下のようになります。
| 漢字 | 意味 |
|---|---|
| 大王 | あなた(相手への尊称) |
| 旣知 | すでに知っている |
| 先帝 | 先代の皇帝 |
| 欲 | ~しようと欲する |
| 以 | ~を用いて、~をもって |
| 爲 | ~となす、~とする |
| 儲副 | 皇太子に相当する後継者 |
この文の中心になる構造は「先帝欲以永康王爲儲副」です。つまり、「先帝が永康王を儲副にしようと欲していた」という意味になります。
「欲以永康王爲儲副」の返り点の考え方
漢文で頻出する形に「以A為B」があります。これは「Aを以てBと為す」と読み、「AをBにする」という意味になります。
今回の場合は「以永康王爲儲副」です。「永康王」を「儲副」とする、つまり「永康王を後継者にする」という意味です。
そのため、返り点を付ける場合は「以」の後ろにある「永康王」を先に読んで、「爲儲副」につなげる形になります。書き下しでは「永康王を以て儲副と為さん」となります。
「旣知」と「欲」の関係を考える
次に文全体の構造を見ると、「大王旣知」は「大王はすでに知っている」という部分です。
その後ろに「先帝欲~」が続き、「何を知っているのか」を説明しています。つまり、「大王は、先帝が~しようとしていたことをすでに知っている」という構造です。
漢文では「知」の後ろに長い目的語が続くことがあります。この場合、「先帝欲以永康王爲儲副」全体が「知」の内容になります。
返り点を付けた読み方の例
文の構造を踏まえると、読み下しは次のようになります。
「大王、既に先帝の永康王を以て儲副と為さんと欲するを知る」
現代語にすると、「大王は、先帝が永康王を後継者にしようとしていたことをすでにご存じでしょう」という意味になります。
ポイントは、「欲」の対象が「以永康王爲儲副」であり、「知」の対象がその全体であるという点です。
漢文の返り点で迷った時の確認方法
返り点を付ける時は、単語を一つずつ日本語順に直そうとするよりも、まず句形を探すことが重要です。
今回の文章では、「欲~」と「以A為B」という二つの重要な句形があります。「以A為B」を見つけることで、「永康王」と「儲副」の関係が分かり、正しい読み方につながります。
また、「知」「聞」「見」などの動詞の後ろには、その内容を表す長い文が続くことがあります。その場合は、後ろ全体が目的語になっていないか確認すると読みやすくなります。
まとめ|返り点は句形と文構造から判断する
「大王旣知先帝欲以永康王爲儲副」という文は、「知」の目的語の中に「欲~」が入り、その中にさらに「以A為B」の句形が含まれているため、返り点を付ける際に迷いやすい文章です。
正しく読むには、まず「以A為B」「欲~」などの決まった表現を見つけ、その後で文全体の関係を整理することが大切です。
漢文の返り点は暗記だけではなく、文章の構造を理解することで自然に付けられるようになります。複雑な文章ほど、句形を見抜くことが正確な読解への近道になります。


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