熱力学を学び始めると、閉じた系のエネルギー保存則と開いた系のエネルギー保存則が似た形になるため、「結局同じ式ではないのか?」と疑問に感じることがあります。特に流動仕事、絶対仕事、工業仕事の関係は混乱しやすいポイントです。この記事では、開いた系のエネルギー式がどのように導かれ、なぜ流動仕事を別に扱うのかを順を追って解説します。
開いた系では流体を出し入れするための仕事が必要
閉じた系では物質の出入りがありません。そのためエネルギー収支は内部エネルギーの変化と熱・仕事だけで表せます。
一方、開いた系では流体が制御体積へ流入し、また流出します。このとき流体を押し込んだり押し出したりするために圧力による仕事が必要になります。これが流動仕事です。
入口では流体を押し込むために p₁V₁、出口では流体が持ち去るエネルギーとして p₂V₂ が現れます。
なぜ最初の式では流動仕事と絶対仕事を分けるのか
エネルギー収支を立てる最初の段階では、どのエネルギーがどこから来たのかを明確にする必要があります。
そのため、流体が運び込む流動仕事と、軸やピストンなどを介して外部とやり取りする絶対仕事を別々に記述します。
例えば定常流れのエネルギー式では次のような考え方になります。
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| pV | 流体を移動させるための流動仕事 |
| La | 軸や羽根車などを介した絶対仕事 |
| Q | 熱移動 |
最初は別々に扱い、その後に整理して扱いやすい形へ変形していきます。
エンタルピーが登場する理由
内部エネルギーUと流動仕事pVは常にセットで現れます。
そこで熱力学では
h = u + pv
というエンタルピーを定義します。
すると開いた系のエネルギー式は非常に見通しがよくなり、
Q – Lt = (h₂-h₁)+ΔKE+ΔPE
のように表現できます。
つまり流動仕事が消えたわけではなく、エンタルピーの中へ組み込まれているのです。
絶対仕事と工業仕事の違い
絶対仕事Laには流動仕事の影響も含まれています。
しかし実際のタービンやコンプレッサーで知りたいのは、軸から取り出せる仕事や投入する仕事です。
そこで工業仕事Ltを定義し、
La = Lt + (p₂v₂ – p₁v₁)
という関係を使います。
ここでの流動仕事部分を分離することで、機械が実際に行う仕事だけを評価できるようになります。
閉じた系と開いた系で式が似ていても意味は異なる
途中計算で流動仕事項が相殺されると、見かけ上は閉じた系と似た形になることがあります。
しかし物理的な意味は異なります。
| 閉じた系 | 開いた系 |
|---|---|
| 物質移動なし | 物質移動あり |
| 境界の移動で仕事が発生 | 流体の出入りで流動仕事が発生 |
| P-V線図の面積が仕事 | 流れに伴うエンタルピー変化が重要 |
式が似ていても、エネルギーが運ばれる仕組みそのものが違うため、同じ意味として解釈してはいけません。
まとめ
開いた系では流体を押し込んだり押し出したりする流動仕事が存在するため、最初は流動仕事と絶対仕事を分けてエネルギー収支を立てます。その後、内部エネルギーと流動仕事をまとめてエンタルピーとして扱うことで式が簡潔になります。
また絶対仕事Laと工業仕事Ltは同じではなく、Laには流動仕事成分が含まれています。そのため機械の性能評価では工業仕事を用います。途中で式が閉じた系と似た形になっても、開いた系では流れによるエネルギー輸送が含まれている点が本質的な違いです。


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