線形代数を学んでいると、「行列を基本変形して簡単にしてから逆行列を求めてもよいのか?」という疑問を持つことがあります。特に掃き出し法や基本行列を学んだ直後は、行基本変形がどこまで許されるのか混乱しやすいポイントです。この記事では、基本行列操作と逆行列の関係を、具体例を交えながら整理していきます。
基本行列操作とは何か
線形代数でいう「基本行列操作」とは、行列に対する基本変形のことです。
- 行の入れ替え
- ある行を定数倍する
- ある行に別の行の定数倍を加える
これらは「行基本変形」と呼ばれます。
そして、それぞれの変形は「基本行列」を左から掛ける操作と一致します。
つまり、行列Aに対して基本変形を行うことは、
EA
という形で基本行列Eを掛けることと同じ意味になります。
逆行列は勝手に変わってしまうのか
結論から言うと、行列そのものを基本変形して別の行列にしてしまった場合、その逆行列は元の逆行列とは別物になります。
例えば、Aを変形してBになったなら、普通は
B^{-1}≠A^{-1}
です。
これは当然で、基本変形によって行列自体が変化しているからです。
ただし、掃き出し法のように「変形の過程を利用して逆行列を求める方法」は別です。
掃き出し法で逆行列を求める仕組み
逆行列を求める代表的な方法に、
[A|I]
を変形して
[I|A^{-1}]
にする方法があります。
これは、左側のAに行基本変形を加えて単位行列Iへ変えると、その同じ変形が右側にも作用し、結果として逆行列が現れる仕組みです。
ここで重要なのは、
「変形後の行列の逆行列」を求めているのではなく、「元のAに対して加えた変形そのもの」を追跡している
という点です。
具体例で考える
例えば、
A=\begin{pmatrix}1&2\\3&4\end{pmatrix}
を考えます。
この行列を行基本変形して単位行列へ持っていくと、その変形を表す基本行列の積がA^{-1}になります。
しかし、途中で得られた別の行列Bについて、その逆行列を求めても、それは単にBの逆行列であり、元のAの逆行列とは違います。
つまり、
- 変形を「計算手段」として使う → OK
- 変形後の行列を「元と同じもの」と考える → NG
という整理が大切です。
なぜ基本変形で逆行列が求まるのか
ここは線形代数の本質的な部分です。
基本変形はすべて「可逆変換」です。
つまり、元に戻せます。
そのため、
E_kE_{k-1}…E_2E_1A=I
となったなら、
E_kE_{k-1}…E_2E_1=A^{-1}
になります。
つまり逆行列とは、「Aを単位行列に戻す変形の集合」だと考えることができます。
この視点を持つと、掃き出し法が単なる計算テクニックではなく、線形変換を打ち消す操作だと理解できるようになります。
行列式との関係
逆行列が存在する条件として、行列式が0でないことがあります。
行基本変形によって行列式は変化します。
| 変形 | 行列式への影響 |
|---|---|
| 行の交換 | 符号が反転 |
| 行の定数倍 | その定数倍 |
| 他行の倍を加える | 変化なし |
つまり、基本変形によって行列の性質そのものも変化します。
このことからも、「変形後の行列は元の行列とは別物」だとわかります。
よくある誤解
初学者がよく混同するのは、
「基本変形しても連立方程式の解が変わらない」
という事実です。
確かに、連立方程式では同値変形なので解集合は保たれます。
しかし、行列そのものは変わっています。
例えば、係数行列を変形しても方程式の意味は保たれますが、その行列の逆行列まで同じになるわけではありません。
まとめ
行基本変形を行った後の行列は、一般には元の行列とは別の行列です。そのため、変形後に普通に逆行列を求めた場合、それは元の逆行列とは一致しません。
ただし、掃き出し法では「元の行列に施した変形」を追跡しているため、その変形の積として逆行列を得ることができます。
つまり、
基本変形は逆行列を求めるための道具としては有効だが、変形後の行列を元の行列と同一視してはいけない
という点が重要です。


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