BPSK(二位相偏移変調)は、デジタル通信で広く利用される基本的な変調方式の一つです。しかし、搬送波再生を用いた同期検波では位相のあいまいさが発生するため、その対策として差動符号化を組み合わせた方式が利用されます。この記事では、差動符号化BPSKのビット誤り率(BER)をCNR(搬送波電力対雑音電力比)の関数として求める方法と、DPSKやBFSKなどの2値デジタル変調方式との性能比較について解説します。
BPSKにおける位相あいまいさとは
BPSKでは、送信するビットに応じて搬送波の位相を0度または180度変化させます。例えば、ビット1を位相0度、ビット0を位相180度として送信する方式です。
しかし、受信側で搬送波を再生して同期検波を行う場合、再生された搬送波の位相が送信側の搬送波に対して0度ずれるか180度ずれるかを完全には判断できません。この状態を位相のあいまいさと呼びます。
もし位相が180度ずれて同期すると、すべての判定結果が反転してしまいます。そのため、BPSKでは差動符号化を利用してこの問題を解決します。
差動符号化BPSKの信号モデル
差動符号化では、現在送るビットそのものではなく、直前のシンボルとの位相差によって情報を表します。
例えば、送信データをa_k、差動符号化後の信号をb_kとすると、一般的には次のような関係になります。
b_k=a_k⊕b_(k-1)
ここで⊕は排他的論理和(XOR)を表します。この処理によって、受信側は絶対的な位相ではなく、隣り合う信号間の位相変化を検出することでデータを復元できます。
そのため、搬送波の位相が180度ずれていても、隣接シンボル間の関係は保持され、正常な復調が可能になります。
差動符号化BPSKのビット誤り率の導出
同期検波BPSKの場合、AWGN(加法性白色ガウス雑音)環境下でのビット誤り率は次式で表されます。
Pe=Q(√(2Eb/N0))
ここで、Ebは1ビットあたりのエネルギー、N0は雑音電力密度、Q(x)はガウスQ関数です。
CNRをγとすると、BPSKでは1シンボルあたり1ビットを送信するため、Eb/N0はCNRと等価に扱えます。
したがって通常のBPSKでは、
Pe=Q(√(2γ))
となります。
一方、差動符号化BPSKでは、隣接シンボルの比較によって判定するため、誤りは現在のシンボルだけでなく、前のシンボルの誤りにも影響されます。そのためビット誤り率は、
Pe=(1/2)exp(-Eb/N0)
またはCNRをγとして、
Pe=(1/2)exp(-γ)
で近似されます。
これは同期検波BPSKよりも性能が約3dB低下することを意味します。つまり、同じBERを得るためには約2倍の信号電力が必要になります。
BPSK・DPSK・BFSKのビット誤り率比較
代表的な2値デジタル変調方式のビット誤り率を比較すると、以下のようになります。
| 方式 | ビット誤り率 | 特徴 |
|---|---|---|
| BPSK(同期検波) | Pe=Q(√(2γ)) | 最も高性能だが位相同期が必要 |
| DPSK(差動検波) | Pe=(1/2)e^-γ | 位相あいまいさに強いが約3dB劣化 |
| BFSK(同期検波) | Pe=Q(√γ) | BPSKより性能は低いが周波数識別が容易 |
この比較から分かるように、理想的な環境ではBPSKが最も優れたBER特性を持ちます。しかし、実際の通信システムでは搬送波同期の難しさがあるため、DPSKのような方式が利用される場合があります。
BFSKは周波数の違いで情報を表すため、フェージングや同期誤差に比較的強い特徴がありますが、同じ帯域幅・電力条件ではBPSKより誤り率性能は劣ります。
各方式の選択基準と利用例
BPSKは高い電力効率が求められる衛星通信や深宇宙通信などで利用されています。同期処理を正確に行える環境では、非常に優れた通信性能を発揮します。
DPSKは位相同期回路を簡略化できるため、移動体通信や簡易な無線通信システムで利用されてきました。多少のBER性能低下を許容することで、受信機の構成を簡単にできます。
BFSKは無線呼び出しや低速データ通信などで利用され、周波数の判別によって復調できるため、回路設計が比較的容易です。
まとめ:差動符号化BPSKは位相あいまいさを解決する代わりにBER性能が低下する
BPSKは理論的に非常に優れたビット誤り率特性を持つ変調方式ですが、同期検波では搬送波位相のあいまいさという問題があります。
この問題を解決するために差動符号化BPSKが利用され、ビット誤り率はCNRをγとしてPe=(1/2)exp(-γ)で表されます。
性能比較では、同期検波BPSKが最も高性能であり、DPSKは約3dBの性能低下、BFSKはさらに低いBER性能となります。ただし、実際の通信システムでは性能だけでなく、同期の容易さや回路の複雑さを考慮して方式が選択されています。


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