関数解析では、弱コンパクト性、弱点列コンパクト性、弱*コンパクト性、弱*点列コンパクト性という似た概念が登場します。しかし、弱位相と弱*位相では対象となる空間や位相の作り方が異なるため、同じように扱えない部分があります。本記事では、Banach–Alaogluの定理、Eberlein–Šmulianの定理、可分性による弱*位相の距離化可能性、反射性との関係を整理します。
弱コンパクト性と弱*コンパクト性は何が違うのか
Banach空間Xにおける弱位相σ(X,X*)は、X*の元である連続線形汎関数fを使って定められる位相です。つまり、点列x_nがxに弱収束するとは、任意のf∈X*についてf(x_n)→f(x)が成立することを意味します。
一方、双対空間X*上の弱*位相σ(X*,X)では、X**ではなく元の空間Xの点x∈Xを使って評価します。すなわち、f_n∈X*がfに弱*収束するとは、任意のx∈Xについてf_n(x)→f(x)となることです。
両者の大きな違いは、弱位相では全ての連続線形汎関数X*を使うのに対し、弱*位相ではXから来る評価写像だけを使う点です。このため弱*位相は一般に弱位相より粗い位相になります。
Eberlein–Šmulianの定理が弱*位相にそのまま使えない理由
Eberlein–Šmulianの定理は、Banach空間Xについて、弱コンパクト性と弱点列コンパクト性が同値であることを示します。つまり、弱位相σ(X,X*)ではコンパクト集合なら点列による特徴付けが可能になります。
しかし、この定理をそのままX*の弱*位相σ(X*,X)に適用することはできません。理由は、弱*位相はX*をBanach空間として見た場合の通常の弱位相σ(X*,X**)とは異なるからです。
例えば、X*の弱位相ではX**の全ての元を使って収束を判定しますが、弱*位相ではXに由来する評価だけしか使いません。そのため、弱*コンパクト性から弱*点列コンパクト性が一般に従うとは限りません。
Banach–Alaogluの定理とネットが必要になる理由
Banach–Alaogluの定理は、双対空間X*の閉単位球B_X*が弱*位相σ(X*,X)に関してコンパクトであることを述べています。
ここで注意すべきなのは、一般位相空間におけるコンパクト性は必ずしも点列コンパクト性を意味しないという点です。距離空間では両者は一致しますが、無限次元Banach空間の弱*位相では距離化できない場合があります。
そのため、Banach–Alaogluの定理の一般的な証明や利用では、数列ではなくネットを使ってコンパクト性を表現します。点列だけで扱えるのは追加条件がある場合です。
Xが可分な場合に弱*位相が距離化できる仕組み
Xが可分であるとは、可算な稠密集合D={x_1,x_2,…}が存在することです。この性質は、双対単位球B_X*上の弱*位相を距離化することにつながります。
具体的には、B_X*上の汎関数f,gについて、d(f,g)=Σ(1/2^n)|f(x_n)-g(x_n)|/(1+|f(x_n)-g(x_n)|)のような距離を考えることができます。この距離は可算稠密集合上での値の違いだけを利用します。
稠密集合上で一致する連続線形汎関数は全体でも一致するため、この距離によって弱*位相を十分に表現できます。その結果、B_X*は距離空間として扱えるようになり、コンパクト性と点列コンパクト性が一致します。
したがって、Xが可分ならBanach–Alaogluの定理からB_X*の弱*点列コンパクト性が導かれます。
反射的Banach空間と弱コンパクト性の関係
Banach空間Xが反射的であるとは、標準埋め込みJ:X→X**が全射になることです。つまり、XとX**を自然に同一視できます。
Banach–Alaogluの定理をX**に適用すると、X**の閉単位球B_X**は弱*位相σ(X**,X*)でコンパクトになります。
反射性によってXとX**をJによって同一視すると、σ(X**,X*)での収束条件はσ(X,X*)での収束条件と一致します。実際、x∈XをJ(x)∈X**として考えると、φ∈X*に対してJ(x)(φ)=φ(x)となるため、評価の仕方が同じになります。
その結果、反射的Banach空間では閉単位球が弱コンパクトになります。これは反射性とBanach–Alaogluの定理を結びつける重要な考え方です。
4つのコンパクト性概念の整理
| 概念 | 位相 | 一般的な関係 |
|---|---|---|
| 弱コンパクト性 | σ(X,X*) | Eberlein–Šmulianにより弱点列コンパクト性と同値 |
| 弱点列コンパクト性 | 弱位相での点列 | Banach空間では弱コンパクト性と一致 |
| 弱*コンパクト性 | σ(X*,X) | Banach–Alaogluにより双対単位球で成立 |
| 弱*点列コンパクト性 | 弱*位相での点列 | 可分性などの条件が必要 |
特に重要なのは、弱位相の場合にはEberlein–Šmulianの定理がある一方、弱*位相の場合には追加条件なしでは同じ結果が得られないという点です。
弱*コンパクト性を点列で扱いたい場合は、Xの可分性による距離化可能性や、その他の特殊な構造を確認する必要があります。
代表的な例から見る違い
典型例として、無限次元Banach空間では双対単位球が弱*コンパクトであっても、弱*位相が距離化できない場合があります。この場合、コンパクト性を数列だけで記述することはできません。
一方、Hilbert空間のような反射的な空間では、弱コンパクト性が成立し、閉単位球内の有界列から弱収束する部分列を取り出すことができます。
このように、可分性は弱*位相を扱いやすくする条件であり、反射性は弱位相でのコンパクト性を保証する条件として働きます。
まとめ:弱収束と弱*収束を理解するためのポイント
弱位相σ(X,X*)と弱*位相σ(X*,X)は似ていますが、試験する汎関数の範囲が異なるため、コンパクト性の性質も変わります。
Eberlein–Šmulianの定理によって弱コンパクト性は弱点列コンパクト性と一致しますが、弱*コンパクト性について同じことを言うには可分性などの追加条件が必要です。
Banach–Alaogluの定理、可分性、反射性の関係を整理すると、弱コンパクト性と弱*コンパクト性の違いは、どの空間のどの位相を見ているかという点に集約されます。


コメント