有限次元ベクトル空間上の線形写像を分類するとき、有理標準形とジョルダン標準形は別々の概念のように見えますが、実際には同じK[x]-加群の構造を異なる体の上で見ているものです。
この記事では、線形写像をK[x]-加群として分類する考え方から出発し、不変因子と初等因子の関係、さらにQからCへの体の拡大によって有理標準形がどのようにジョルダン標準形へ変化するのかを整理して解説します。
線形写像をK[x]-加群として見る意味
体K上の有限次元ベクトル空間Vと線形写像T:V→Vを考えます。このときVに対して、xがTとして作用するように定めることで、VをK[x]-加群として考えることができます。
つまり、多項式g(x)∈K[x]に対して、g(x)がベクトルvに作用するとき、g(x)vをg(T)vと定義します。この見方をすると、線形写像の相似分類問題はK[x]-加群の分類問題になります。
K[x]は単項イデアル整域なので、有限生成ねじれK[x]-加群の構造定理が利用できます。その結果、Vは
K[x]/(f_1)⊕K[x]/(f_2)⊕…⊕K[x]/(f_r)
という形に分解され、f_1|f_2|…|f_rという関係を満たします。
不変因子は特性多項式と最小多項式だけでは決まらない
有理標準形を決定するためには、不変因子f_1,…,f_rを知る必要があります。しかし、特性多項式と最小多項式だけでは一般に不変因子列は一意には決まりません。
特性多項式はすべての不変因子の積として表され、最小多項式は最大の不変因子に一致します。しかし、その間にどのような分割で不変因子が並ぶかという情報までは含まれていません。
例えば、
χ_T(x)=(x^2+1)^4(x^2-2)^3
m_T(x)=(x^2+1)^3(x^2-2)^2
の場合、最大の不変因子は決まりますが、他の因子の配置には複数の可能性があります。
具体例:同じ特性多項式と最小多項式を持つ異なる有理標準形
簡単化して、ある既約多項式p(x)について、特性多項式がp(x)^4、最小多項式がp(x)^3である場合を考えます。
このとき不変因子列として、例えば
p(x),p(x)^3
という形も可能ですし、
p(x)^2,p(x)^2
という形も考えられます。
どちらも積を取ればp(x)^4となり、最大の指数は3ではないため、この例では条件調整が必要ですが、このように「指数の分布」が追加情報として必要になります。一般には各既約多項式に対する初等因子の指数列が分かれば不変因子は復元できます。
つまり、特性多項式と最小多項式は分類情報の一部であり、完全な相似類を決定するには初等因子の詳細な配置が必要になります。
体を拡大すると有理標準形はジョルダン標準形に分解される
有理標準形では、K上で既約な多項式を一つの単位として扱います。しかし、体をCのような代数閉体へ拡大すると、その既約多項式は一次式の積へ分解されます。
例えばQ上では、
x^2+1
は既約ですが、C上では
(x-i)(x+i)
と分解されます。
同様に、
x^2-2
はQ上では既約ですが、C上では
(x-√2)(x+√2)
となります。
初等因子の指数とジョルダンブロックの大きさの対応
Q上で既約多項式p(x)に対する初等因子p(x)^kが存在するとき、Cへ拡大すると、そのp(x)の各根λに対応してサイズkのジョルダンブロックが現れます。
例えば、Q上で(x^2+1)^3という初等因子がある場合、x^2+1の根はiと-iなので、C上では固有値iと-iについて、それぞれサイズ3のジョルダンブロックが現れます。
ただし、次数2の既約多項式なので、次元は合わせて4次になります。つまり、p(x)^3の場合、C上ではλ=iについて3次のブロック、λ=-iについて3次のブロックという意味ではなく、各根ごとに同じ指数のブロック構造が現れ、全体の次元が一致するように分解されます。
一般に、既約多項式p(x)の次数をd、その冪p(x)^kを考えると、C上ではp(x)のd個の根それぞれについて指数kに対応するジョルダンブロックが現れます。
Q上で異なる線形写像がC上で相似になることはあるか
結論から言えば、Q上で相似でない線形写像が、Cへ拡大した後に相似になることはあります。
理由は、体を拡大するとQ上では区別されていた情報が失われる場合があるためです。Q上ではx^2+1という一つの既約因子として扱っていたものが、C上ではx-iとx+iに分かれます。
しかし、単に固有値だけを見ると情報が不足することがあります。重要なのは、各固有値に対応するジョルダンブロックの大きさだけでなく、それらがどのガロア共役の組としてQ上で結び付いているかという情報です。
ジョルダン標準形から有理標準形を復元する考え方
QからCへ移った場合、ジョルダン標準形は細かく分解された情報です。一方、有理標準形はそれらをQ上でまとめ直したものです。
例えば、固有値iと-iはQ上では別々の固有値として存在するわけではなく、x^2+1という既約多項式によって結び付いています。
そのため、C上のジョルダン標準形を見るだけでなく、ガロア共役な固有値に対応するブロックを組み合わせることで、Q上の初等因子を再構成できます。
まとめ|有理標準形とジョルダン標準形は同じ分類を異なる体で表したもの
有理標準形はK[x]-加群としての分解を表し、ジョルダン標準形は代数閉体上で一次因子まで分解した結果を見るものです。
特性多項式と最小多項式だけでは有理標準形は完全には決まりません。不変因子や初等因子の指数配置が必要になります。
また、体をQからCへ拡大すると、既約多項式は一次式へ分解され、有理標準形の各巡回成分がジョルダンブロックへ分裂します。この対応を理解すると、有理標準形とジョルダン標準形は別々の理論ではなく、同じ線形写像の構造を異なる視点から記述していることが分かります。


コメント