犯罪心理学では、犯罪行動がどのように学習され、なぜ繰り返されるのかを説明するために、さまざまな理論が提唱されています。その中でもエドウィン・サザーランドの「分化的接触理論」は、犯罪が周囲の人間関係や環境の中で学習されるという考え方として知られています。
一方で、「万引き犯は逮捕や補導を経験すれば、犯罪のデメリットを学んでやめるのではないか」「それでも万引きを繰り返す常習犯がいるのは、分化的接触理論では説明できないのではないか」と疑問に感じる人もいます。
この記事では、分化的接触理論の考え方と、万引き常習犯の再犯がなぜ起こるのかを、犯罪心理学の視点から解説します。
分化的接触理論とは何か
分化的接触理論とは、アメリカの社会学者エドウィン・H・サザーランドが提唱した犯罪学の理論です。この理論では、犯罪は生まれつきの性質ではなく、人との交流や環境を通じて学習されると考えます。
簡単に言えば、人は周囲の人から「犯罪を肯定する考え方」や「犯罪を実行する方法」を学ぶことがあるということです。
例えば、犯罪を繰り返す仲間と関わり、「みんなやっている」「見つからなければ問題ない」という考えを聞く機会が多くなると、犯罪に対する抵抗感が低下する可能性があります。
分化的接触理論は「犯罪者は捕まれば必ずやめる」という理論ではない
分化的接触理論に対する誤解として、「犯罪が悪い結果につながると分かれば犯罪をやめるはず」という考えがあります。しかし、この理論は犯罪者の合理的判断だけを説明するものではありません。
この理論が説明しているのは、犯罪を行う前の価値観や考え方がどのように形成されるかという部分です。
つまり、一度逮捕されたとしても、本人の中に犯罪を正当化する考え方が残っていたり、犯罪を支持する環境に戻ったりすれば、再び犯罪行為に及ぶ可能性があります。
万引き常習犯が再犯する理由
万引きの再犯には、複数の心理的・社会的要因が関係しています。単純に「捕まるリスクを理解していないから」だけでは説明できません。
例えば、万引き常習者の中には「店が少し損をするだけ」「大きな犯罪ではない」と考え、行為を正当化する認知のゆがみを持つ人がいます。
また、ストレス解消、衝動を抑えられない、盗む行為そのものへの依存など、単なる損得計算では説明できない要素も存在します。
犯罪行動は環境だけではなく心理的要因も影響する
分化的接触理論は、犯罪を理解する重要な視点ですが、すべての犯罪行動を一つの理論だけで説明することはできません。
現在の犯罪心理学では、環境要因、個人の性格、精神状態、経済状況、社会的なつながりなど、複数の要因が組み合わさって犯罪行動が生じると考えられています。
例えば、同じように万引きを経験した人でも、一度でやめる人もいれば、何度も繰り返す人もいます。その違いには、本人の考え方や生活環境などが影響します。
万引きは「みんなやっている」という心理だけで起こるわけではない
万引き犯の中には、「他の人もやっている」「大したことではない」という考えを持つ人もいます。これは分化的接触理論でいう犯罪を肯定する定義の学習と関連します。
しかし、すべての万引き犯が周囲から影響を受けて犯罪を始めるわけではありません。孤立した状態で衝動的に行うケースや、精神的な問題が背景にあるケースもあります。
そのため、万引きの再犯を防ぐには、単に罰を与えるだけではなく、犯罪を支える考え方や生活上の問題にも対応する必要があります。
逮捕されても犯罪をやめない心理とは
人間は必ずしも常に合理的な判断をするわけではありません。健康に悪いと分かっていても喫煙を続ける人がいるように、危険や不利益を理解していても行動を変えられない場合があります。
万引きの場合も、「捕まる可能性がある」と理解していても、その瞬間の欲求や心理状態が勝ってしまうことがあります。
さらに、犯罪行動を繰り返すことで習慣化し、本人の中で抵抗感が薄れていくこともあります。
まとめ
万引き常習犯に分化的接触理論が当てはまらないように見えるのは、この理論が「犯罪を学習する過程」を説明するものであり、「一度捕まれば必ず犯罪をやめる」という理論ではないためです。
犯罪行動の再発には、犯罪を正当化する考え方、周囲の環境、心理的な問題、習慣化など複数の要因が関係しています。
分化的接触理論は犯罪心理を理解する重要な枠組みの一つですが、万引き常習犯を理解するには、社会環境と個人の心理の両方を見る必要があります。


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