シェイクスピアの『テンペスト(The Tempest)』には、プロスペロー、ミランダ、ファーディナンド、キャリバン、そして名前だけが語られる魔女シコラックスなど、複雑な背景を持つ人物が登場します。
特にシコラックスは劇中で直接登場しないにもかかわらず、悪女や魔女として語られます。しかし、本当に彼女は単純な悪人だったのでしょうか。プロスペローの態度や作品全体のテーマを考えると、別の見方も可能です。
シコラックスとはどのような人物なのか
シコラックスは『テンペスト』の舞台となる島にかつて住んでいたアルジェリア出身の魔女です。彼女はアリエルを支配し、島を自分の力で治めていた存在として語られています。
劇中では、プロスペローがシコラックスについて「邪悪な魔女」として説明します。しかし、重要なのはシコラックス本人は舞台に登場せず、観客は主にプロスペローや他の人物の話を通して彼女を知るという点です。
つまり、シコラックスの人物像は完全な事実ではなく、語り手によって形作られたものだと考えることもできます。
プロスペローは本当に正義の人物なのか
プロスペローはミラノの公爵でしたが、弟アントーニオの裏切りによって国を追われ、島で魔法を使いながら生活していました。
一見すると、プロスペローは不当に地位を奪われた被害者に見えます。しかし、島ではアリエルやキャリバンを支配し、自分の意思に従わせています。
そのため、作品研究ではプロスペローを単なる善人ではなく、権力を持つ者が他者を支配する構造を象徴する人物として分析されることがあります。
ファーディナンドを見たプロスペローの態度とシコラックスの共通点
ファーディナンドとミランダが出会った際、プロスペローは娘を守ろうとし、ファーディナンドに対して厳しい態度を取ります。
プロスペローの言動には、娘への愛情だけでなく、自分が相手を試し、管理しようとする支配的な面も表れています。
この点から見ると、もしシコラックスが自分の力や立場を守るために他者へ厳しく接したとしても、プロスペローと完全に異なる存在とは言い切れません。
シコラックスも事情を持った人物だった可能性
シコラックスが悪行を行った可能性は、作品内の情報だけを見る限り否定できません。しかし、彼女がなぜそのような行動を取ったのかについては詳しく描かれていません。
例えば、彼女が故郷を追われた経験や、男性中心の社会で生き抜くために力を求めた結果として魔法を使うようになったという解釈もあります。
もちろん、これはシェイクスピアが明確に示した設定ではありませんが、近年の文学研究では、シコラックスを単純な悪役ではなく、歴史や社会的背景を持つ人物として読み直す考え方があります。
シコラックスとプロスペローは鏡のような存在
『テンペスト』では、シコラックスとプロスペローは対照的な存在として描かれています。シコラックスは過去の魔女、プロスペローは現在の魔法使いとして扱われます。
しかし、両者には共通点があります。それは、どちらも魔法という力を使って島の存在者を支配していることです。
このため、シコラックスだけを悪として見るのではなく、プロスペロー自身にも同じような問題があるのではないかという読み方が生まれます。
『テンペスト』が問いかける善悪の曖昧さ
シェイクスピアの作品では、単純に善人と悪人を分けられない人物が多く登場します。『テンペスト』でも、誰が正しく誰が間違っているのかは簡単には決められません。
シコラックスについても、悪行をした可能性はありますが、彼女だけを特別に邪悪な存在として扱うことには注意が必要です。
むしろ、プロスペローとシコラックスを比較することで、権力を持つ者がどのように他者を扱うのかという作品の深いテーマが見えてきます。
まとめ
シコラックスが悪行を行った可能性は作品内の描写から考えれば十分ありえます。しかし、彼女は劇中で直接描かれず、主にプロスペローたちの視点から語られる人物です。
そのため、シコラックスを単なる悪役と決めつけるよりも、プロスペロー自身との共通点や、権力・支配というテーマの中で考えることが重要です。
『テンペスト』は、誰が正義で誰が悪なのかを考えさせる作品であり、シコラックスという存在もまた、その問いを深めるための重要な人物だと言えるでしょう。


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