『御伽草子』などの古典作品では、現代語とは異なる助動詞や活用の仕組みが使われているため、品詞分解の際に疑問が生じやすい表現があります。特に「せしに」のような形は、現代文法の感覚では「未然形に過去の助動詞が付いているのはなぜか」と混乱しやすい部分です。
この記事では、「命も消ゆべきに極まりしに、不思議にすくひ給ふ」や「左右の足にて踏み落とさんとせしに、足も離れず」という表現を例に、品詞分解と意味、さらにサ変動詞「す」の未然形「せ」に助動詞「き」が接続する理由について詳しく解説します。
「命も消ゆべきに極まりしに」の品詞分解
まず「命も消ゆべきに極まりしに、不思議にすくひ給ふ」の部分を分解して確認します。
命:名詞
も:係助詞
消ゆ:ヤ行下二段活用動詞「消ゆ」の終止形
べき:助動詞「べし」の連体形(当然・可能などの意味)
に:格助詞または接続助詞(ここでは状況を示す)
極まり:ラ行四段活用動詞「極まる」の連用形
し:助動詞「き」の連体形
に:接続助詞
現代語訳すると、「命までも消えてしまうに違いないほどの状態になったところで、不思議なことにお救いになった」という意味になります。
「不思議にすくひ給ふ」の品詞分解
続く部分も確認すると、古典特有の敬語表現が含まれています。
不思議に:形容動詞「不思議なり」の連用形
すくひ:ハ行四段活用動詞「救ふ」の連用形
給ふ:補助動詞・ハ行四段活用「給ふ」の終止形(尊敬の意味)
「給ふ」は、動作主である身分の高い人物への敬意を表しています。そのため、「不思議にもお救いになった」という意味になります。
「踏み落とさんとせしに」の品詞分解
次に疑問になりやすい「左右の足にて踏み落とさんとせしに、足も離れず」を見ていきます。
左右:名詞
の:格助詞
足:名詞
にて:格助詞「に」+接続助詞「て」(手段・方法を表す)
踏み落とさ:サ行四段活用動詞「踏み落とす」の未然形
ん:助動詞「む」の終止形(意志・推量)
と:格助詞
せ:サ行変格活用動詞「す」の未然形
し:助動詞「き」の連体形
に:接続助詞
意味は、「左右の足で踏み落とそうとしたところ、足も離れなかった」となります。
なぜ「せ」に過去の助動詞「き」が接続できるのか
「せし」という形で最も混乱しやすい点は、サ変動詞「す」の未然形「せ」に、過去の助動詞「き」が付いているように見えることです。
古典文法では、助動詞「き」は連用形接続です。そのため、「未然形+き」になることはありません。しかし、この場合の「せ」は未然形ではなく、サ変動詞「す」の連用形です。
サ変動詞「す」の活用は以下のようになります。
| 未然形 | せ |
| 連用形 | し |
| 終止形 | す |
| 連体形 | する |
| 已然形 | すれ |
| 命令形 | せよ |
つまり「せし」ではなく、正確には「せ+し」ではなく「し+き」と考えます。「せしに」では、「す」の連用形「し」に過去の助動詞「き」の連体形「し」が付いた形です。
「せしに」はどのように理解すればよいか
古典では、同じ「し」という形が複数の働きを持つため、見た目だけで判断すると間違いやすくなります。
今回の「せしに」は、動詞「す」の連用形「し」+助動詞「き」の連体形「し」ではなく、「せ」という形を見てしまったことによる誤解が起こりやすい例です。
文章全体を見ると、「踏み落とさんとす」という「~しようとする」という意味のまとまりがあり、その後に過去を表す「き」が続いて「踏み落とそうとしたところ」という意味になります。
古典文法では接続だけでなく活用表の確認が重要
助動詞の接続を覚えることは重要ですが、接続を判断する前に、その語が何の活用形なのかを確認することが大切です。
例えば「せ」という形を見たとき、すぐに「未然形」と決めつけると、「なぜ連用形接続のきが付くのか」という疑問が生まれます。しかし、前後の語や活用を確認すると正しい分析ができます。
古典では同じ音の形が複数存在するため、「形だけではなく、文中での役割を見る」という意識が必要です。
まとめ:『せし』は未然形+過去ではなく連用形+助動詞「き」
「左右の足にて踏み落とさんとせしに」の「せし」は、サ変動詞「す」の未然形「せ」に過去の助動詞「き」が付いたものではありません。
正しくは、「す」の連用形「し」に助動詞「き」の連体形「し」が付いた形です。古典では同じ「し」という形が現れるため、活用表を確認しながら判断することが重要です。
助動詞の接続を理解するには、単純に接続表を暗記するだけでなく、動詞の活用形を正確に見抜く力を身につけることが大切です。


コメント