F.O.マシーセン(F.O. Matthiessen)が『アメリカン・ルネサンス』で論じたアメリカ国民文学の特徴を考える際、「民主主義」という視点は重要なキーワードになります。しかし、マシーセンの議論は単純に「社会問題を扱う作家=民主主義的」と分類するものではありません。この記事では、James Fenimore Cooper、F. Scott Fitzgerald、William Faulkner、Ralph Ellisonの4人の作家について、民主主義的傾向と芸術史上主義的傾向の違いを踏まえながら整理します。
マシーセンが考えたアメリカ文学の民主主義とは何か
マシーセンは『アメリカン・ルネサンス』において、19世紀中頃のアメリカ文学を代表する作家たちを取り上げ、彼らの作品に表れる民主主義的精神を評価しました。
ここでいう民主主義とは、単に政治制度としての民主主義ではありません。個人の自由、多様な人間の価値、既存の権威への批判、社会の中で抑圧された人々への関心などを含む広い意味で使われています。
そのため、社会問題を題材にしているだけでは民主主義的とは限らず、人間存在をどのように描いているか、社会や権力との関係をどう表現しているかが重要になります。
James Fenimore Cooper(ジェームズ・フェニモア・クーパー)は民主主義的作家に分類できる
クーパーはアメリカ開拓時代を描いた作家であり、代表作『モヒカン族の最後』などで知られています。彼の作品は、自然と文明、先住民と白人社会、個人と国家の関係を扱っています。
クーパーはアメリカ独自の文学を形成した初期の作家であり、ヨーロッパ文学とは異なるアメリカ的経験を描こうとしました。その点では、マシーセンが重視したアメリカ国民文学の形成という意味で民主主義的な側面があります。
ただし、クーパーの先住民描写には当時の時代的限界もあり、現代的な意味で完全に平等主義的だったわけではありません。しかし、アメリカ社会の矛盾や開拓による問題を描いた点では民主主義的文学の流れに位置づけられます。
F. Scott Fitzgerald(F・スコット・フィッツジェラルド)は芸術史上主義的傾向が強い
フィッツジェラルドは『グレート・ギャツビー』などで1920年代のアメリカ社会を描いた作家です。作品には富裕層の虚栄、アメリカン・ドリームの崩壊、階級社会の問題が表れています。
一見すると社会批判的な内容を含むため民主主義的に見えますが、フィッツジェラルドの中心的関心は社会改革よりも、人間の夢や欲望、美意識、時代の精神を文学的に表現することにあります。
そのため、4人の中では芸術史上主義的な側面が比較的強い作家と考えられます。社会を描いていても、その目的は政治的主張より芸術的表現にあります。
William Faulkner(ウィリアム・フォークナー)は民主主義的要素と芸術性を併せ持つ
フォークナーはアメリカ南部を舞台に、人種問題、階級、家族、歴史の重圧を描いた作家です。代表作『響きと怒り』や『アブサロム、アブサロム!』では、南部社会の過去とその矛盾を深く掘り下げています。
彼の作品は、南部の奴隷制度や人種差別の歴史を扱う点で民主主義的な問題意識を持っています。しかし、フォークナーの特徴は社会運動を直接主張することではなく、複雑な人間心理や歴史の記憶を文学的手法によって表現した点にあります。
そのため、フォークナーは民主主義的テーマを扱いながらも、芸術史上主義的な文学表現を追求した作家として考えることができます。
Ralph Ellison(ラルフ・エリソン)は民主主義的文学の代表的存在
エリソンは『見えない人間』によって知られるアフリカ系アメリカ人作家です。この作品では、黒人男性が社会の中で透明な存在として扱われる経験を通して、アメリカ社会における人種問題を描いています。
エリソンの文学は、単なる社会告発ではなく、アメリカ民主主義が抱える矛盾を問い直すものです。自由や平等を掲げる国家でありながら、実際には差別が存在するという問題を文学的に表現しました。
マシーセンの民主主義的文学という考え方に最も近い作家の一人として、エリソンは分類できるでしょう。
4人の作家を分類するとどう考えられるか
4人を大まかに分類すると、以下のように考えることができます。
| 作家 | 傾向 | 理由 |
|---|---|---|
| James Fenimore Cooper | 民主主義的 | アメリカ独自の社会や歴史を描いたため |
| F. Scott Fitzgerald | 芸術史上主義的 | 社会批判より美学や時代精神の表現を重視 |
| William Faulkner | 両方の要素 | 社会問題を芸術的手法で描いた |
| Ralph Ellison | 民主主義的 | 人種問題を通じ民主主義の矛盾を追及 |
ただし、この分類は絶対的なものではありません。文学研究では、一人の作家を一つのカテゴリーだけに当てはめることは難しく、どの側面を重視するかによって評価は変わります。
まとめ
マシーセンのいう民主主義的文学とは、単に社会問題を扱う文学ではなく、人間の自由や平等、社会の矛盾を問い直す文学を指します。
クーパーとエリソンは民主主義的側面が強く、フィッツジェラルドは芸術史上主義的傾向が強いと考えられます。フォークナーはその中間で、民主主義的テーマを高度な文学表現によって扱った作家です。
したがって、課題の答えとしては「全員が民主主義的」とするよりも、それぞれが民主主義と芸術性のどちらに重点を置いているかを比較して論じることが重要です。


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