EDTA滴定では、金属イオンとEDTAの錯形成だけでなく、EDTA自身の酸解離平衡も考慮する必要があります。特にpHによってEDTAの有効な配位子形であるY4−の割合が変化するため、条件付き安定度定数を用いて錯体形成率を求めます。この記事では、Mg2+とEDTAの滴定を例に、錯体形成率を計算する考え方を詳しく解説します。
EDTA滴定で重要な錯体形成率とは
EDTAによる金属イオンの滴定では、単純に金属イオンとEDTAの反応だけを見ることはできません。EDTAは水溶液中でH4Y、H3Y−、H2Y2−、HY3−、Y4−など複数の形で存在します。
金属イオンと強く錯体を形成するのは主にY4−であり、その他の形態のEDTAはそのままでは錯形成に利用されにくいです。そのため、pH5のような条件ではY4−の割合を考慮して計算する必要があります。
錯体形成率とは、全マグネシウム濃度のうち、どれだけの割合がMgY2−などの錯体として存在しているかを示す値です。
条件付き安定度定数を用いた考え方
通常の錯形成反応は、Mg2+ + Y4− → MgY2−として表され、形成定数Kは10^8.7です。しかし、実際の溶液ではEDTAの大部分がY4−以外の形で存在するため、このKをそのまま使うことはできません。
そこで、見かけの形成定数である条件付き安定度定数K’を利用します。K’は次の式で表されます。
K’ = K × αY4−
ここでαY4−は、全EDTA濃度のうちY4−として存在する割合です。質問の条件ではpH5におけるαY4−が約8.0×10−6とされています。
pH5における条件付き安定度定数の計算
与えられた形成定数K=10^8.7とY4−の分率α=8.0×10−6を用いると、条件付き安定度定数は以下のようになります。
K’ = 10^8.7 × 8.0×10−6
10^8.7は約5.0×10^8なので、
K’ ≒ 5.0×10^8 × 8.0×10−6 = 4.0×10^3
つまり、pH5では実際の錯形成の強さは約4000程度になります。見かけ上の形成定数は元の10^8.7より大きく低下しますが、それでもMg-EDTA錯体は十分安定に存在します。
当量点での錯体形成率の求め方
当量点では、加えたEDTAの物質量とマグネシウムイオンの物質量が等しくなっています。そのため、全マグネシウム濃度1.2×10−3Mと全EDTA濃度も同じと考えます。
錯体濃度をx、遊離Mg2+濃度を1.2×10−3−xとすると、条件付き形成定数から次の関係式を立てられます。
K’ = [MgY]/([Mg2+][Y])
当量点ではMg2+と未錯形成EDTAが同じ割合で残るため、近似的に以下のように考えられます。
K’ = x / ((1.2×10−3−x)^2)
ここにK’=4.0×10^3を代入して解くと、錯体濃度は約1.0×10−3M程度になります。
錯体形成率は約83%になるのか
錯体形成率は、錯体濃度を全マグネシウム濃度で割ることで求められます。
錯体形成率 = [MgY]/[Mg]全体 ×100
計算すると、
(約1.0×10−3)/(1.2×10−3)×100 ≒ 83%
となり、求めた83%という値は概ね正しいと考えられます。
ただし、厳密な計算では二次方程式を解く必要があり、近似方法によって多少の誤差は生じます。重要なのは、EDTAの酸解離を考慮して条件付き安定度定数を使うという考え方です。
EDTA滴定で間違えやすいポイント
EDTA滴定では、形成定数Kだけを使って計算してしまうことが多いですが、実際のpH条件ではEDTAの大部分がY4−ではありません。そのため、必ずαY4−を考慮する必要があります。
例えば高いpHではY4−の割合が増えるため錯形成は強くなりますが、低いpHではY4−が減少し、同じ金属イオンでも錯体形成率は低下します。
このように、EDTA滴定では「金属イオンとEDTAの反応」だけではなく、「EDTAがどの形で存在しているか」を考えることが重要です。
まとめ:EDTA滴定ではpHによるY4−割合を考慮することが重要
Mg2+とEDTAの錯形成率を求める場合、通常の形成定数ではなく条件付き安定度定数K’=KαY4−を使います。pH5ではY4−の割合が非常に小さいため、錯形成能力は大きく低下します。
今回の条件ではK’を求めた後、質量保存の関係から錯体濃度を計算すると、錯体形成率は約83%となります。したがって、Y4−の分率から計算するというアプローチは正しい方向であり、条件付き安定度定数を利用することがEDTA滴定の基本的な考え方になります。


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