トランジスタを2段接続して高い電流増幅率を得るダーリントン接続は、電子回路で広く利用されている構成です。一方で、ダーリントン接続を逆向きにしたインバーテッドダーリントン(相補ダーリントン、Sziklaiペアとも呼ばれる)は、ダーリントンより高速動作に向いていると言われることがあります。この記事では、両者の構造の違いから、なぜ速度差が生じるのか、また同じfTのトランジスタを使用した場合の考え方について解説します。
ダーリントン接続とはどのような回路か
ダーリントン接続とは、2個のバイポーラトランジスタ(BJT)を直列的に接続し、1段目のトランジスタのエミッタ電流を2段目のトランジスタのベース電流として利用する構成です。
この接続では、全体の電流増幅率hFEは単純化すると2つのトランジスタの増幅率の積になります。例えば、各トランジスタのhFEが100の場合、全体では約10000という非常に大きな電流増幅率を得ることができます。
しかし、高い増幅率を得られる一方で、高周波特性は悪化する傾向があります。これは、2段のトランジスタが持つ寄生容量や遅延時間が影響するためです。
ダーリントン接続のfTが低下しやすい理由
トランジスタのfT(遮断周波数)は、電流増幅率が1になる周波数を示し、一般的にはトランジスタがどれだけ高速に動作できるかを表す指標として使われます。
ダーリントン接続では、1段目のトランジスタのコレクタ・ベース間容量などが、2段目から見ると大きく見えるミラー効果が発生します。そのため入力容量が増加し、高周波での応答速度が低下します。
また、1段目のトランジスタは2段目を駆動するために動作し続ける必要があり、蓄積された電荷を抜く時間が必要になります。特にスイッチング用途では、この蓄積時間が速度低下の原因になります。
インバーテッドダーリントン(Sziklaiペア)の特徴
インバーテッドダーリントンは、一般的なダーリントン接続とは異なり、NPNとPNPなど異なる極性のトランジスタを組み合わせて構成する回路です。
代表的な構成では、1個目のトランジスタが2個目のトランジスタを駆動しますが、通常のダーリントンよりもベース電流の流れ方や電荷の蓄積状態が異なります。
このため、同程度の電流増幅率を持たせながら、入力容量やスイッチング時の電荷蓄積を小さくできる場合があり、高速動作に有利になることがあります。
インバーテッドダーリントンの方が高速と言われる理由
インバーテッドダーリントンが高速と言われる主な理由は、通常のダーリントン接続で問題となるベース電荷の蓄積が少ないためです。
ダーリントン接続では2つのトランジスタが同じ方向に電流を増幅するため、飽和状態になると大量の少数キャリアが蓄積され、ターンオフ時に時間がかかります。
一方、インバーテッドダーリントンではトランジスタの動作点や電荷の流れが異なるため、条件によっては蓄積時間を短縮できます。そのため、高速スイッチング回路や高周波用途では有利になる場合があります。
2つのトランジスタがそれぞれfT=100MHzの場合の考え方
単純に「2つのトランジスタのfTが100MHzだから、組み合わせた回路のfTも100MHz」とは考えられません。複合トランジスタ回路の周波数特性は、個々のfTだけでは決まらず、接続方法や容量、バイアス条件によって変化します。
一般的なダーリントン接続では、2つのトランジスタを組み合わせることで実効的な遮断周波数は大きく低下します。近似的には、個々のトランジスタのfTをβ倍した関係式で低下量を考えることがあります。
例えば、各トランジスタの電流増幅率をβ=100、fT=100MHzとすると、ダーリントン全体の高周波特性は数MHz程度まで低下する可能性があります。ただし、実際の値は回路条件やトランジスタ特性によって大きく変わります。
インバーテッドダーリントンの場合も単純な計算はできませんが、同じ条件ならダーリントンより高い周波数特性を得られる可能性があります。ただし、必ず2倍や10倍になるというものではなく、回路構成による影響が大きくなります。
高速性を求める場合の選択基準
高い電流増幅率だけを目的とする場合は、ダーリントン接続は非常に便利です。低速なリレー駆動やモーター制御、電力増幅回路などでは現在でも多く利用されています。
一方で、高速スイッチングや高周波信号処理では、インバーテッドダーリントンやMOSFET、複合トランジスタ回路など別の方式が選ばれることがあります。
回路設計では、hFEの大きさだけでなく、fT、入力容量、スイッチング時間、飽和電圧などを総合的に判断することが重要です。
まとめ
ダーリントン接続とインバーテッドダーリントンを比較すると、一般的にはインバーテッドダーリントンの方が高速動作に有利になる場合があります。
その理由は、通常のダーリントン接続で発生しやすい入力容量の増大やベース電荷蓄積による遅延を抑えられる場合があるためです。
ただし、トランジスタ単体のfTだけで複合回路全体のfTを決めることはできません。実際の速度は、トランジスタの種類、接続方法、動作条件、負荷条件によって変化するため、用途に応じた評価が必要になります。


コメント