フィラリア感染犬では、犬糸状虫による肺動脈障害や慢性的な血管変化によって肺高血圧を発症することがあります。心エコー検査では三尖弁逆流速度(TR velocity)が代表的な評価指標ですが、それ以外にも複数の超音波所見を総合して判断することが重要です。この記事では、フィラリア症に伴う肺高血圧を疑う際に確認すべき心エコー所見について解説します。
フィラリア感染犬で肺高血圧が起こる理由
犬糸状虫(Dirofilaria immitis)が肺動脈内に寄生すると、血管内皮障害や炎症反応が起こり、肺動脈の抵抗が上昇します。その結果、右心系に負荷がかかり、肺高血圧へ進行することがあります。
特に慢性感染や多数寄生例では、肺動脈の狭窄や血管の線維化が進み、肺動脈圧が上昇しやすくなります。そのため、心エコーでは単一の数値だけではなく、右心系の形態や機能変化を総合的に評価する必要があります。
TR velocity以外で肺高血圧を示唆する主な心エコー所見
三尖弁逆流速度は肺動脈収縮期圧を推定するために広く使用されますが、十分な三尖弁逆流波が得られない症例もあります。その場合は、以下のような複数の所見を組み合わせて評価します。
| 超音波所見 | 肺高血圧を示唆する変化 |
|---|---|
| 肺動脈拡大 | 肺動脈径の増大、肺動脈と大動脈径の比率上昇 |
| 右心室拡大 | 慢性的な右室圧負荷による右室拡張 |
| 右房拡大 | 右心系への容量・圧負荷を反映 |
| 心室中隔平坦化 | 右室圧上昇による左室形態変化 |
| 肺動脈血流速度変化 | 肺動脈加速時間の短縮など |
肺動脈拡大と肺動脈血流パターンの評価
肺高血圧では肺動脈への圧負荷によって肺動脈が拡張することがあります。右傍胸骨短軸像などで肺動脈径を評価し、肺動脈と大動脈径の比(PA/Ao比)を参考にします。
また、パルスドプラ法による肺動脈血流評価では、肺動脈加速時間(PA acceleration time)の短縮が肺動脈圧上昇を示唆することがあります。重症例では血流波形が早期ピークを示すこともあります。
例えば、TR velocityが明確に測定できない犬でも、肺動脈拡大、PA/Ao比上昇、肺動脈血流パターン異常が認められる場合には肺高血圧の可能性を考慮します。
右心室と右心房の変化から見る肺高血圧
肺高血圧が進行すると、肺循環へ血液を送り出す右心室に大きな負荷がかかります。その結果、右室拡大や右室壁肥厚が見られることがあります。
また、右室からの血液を受ける右房も拡大する場合があります。右房拡大は慢性的な右心系負荷を示す重要な所見であり、フィラリア症による右心不全の評価にも役立ちます。
さらに重度の肺高血圧では、右室圧が左室圧を上回ることで心室中隔が左室側へ押し出され、左室がD字型に見える「心室中隔扁平化」が認められることがあります。
心室中隔の形態変化と右室機能評価
心室中隔の形態は、右室圧負荷を評価する重要なポイントです。正常では左室は円形に近い形をしていますが、肺高血圧が強くなると右室圧によって中隔が平坦化します。
右室機能については、三尖弁輪収縮期移動距離(TAPSE)や右室収縮速度(S’)などを用いて評価することがあります。肺高血圧が長期間続くと右室収縮機能が低下する可能性があります。
フィラリア症の肺高血圧評価では総合判断が重要
フィラリア感染犬における肺高血圧の診断では、TR velocityだけで判断するのではなく、肺動脈の形態、右心系の拡大、心室中隔の変化、肺動脈血流などを組み合わせて評価することが大切です。
例えば、TR velocityが高値でなくても、肺動脈拡大や右心系拡張が認められる場合には、肺高血圧を疑い追加評価が必要になることがあります。
心エコー検査は非侵襲的に繰り返し評価できるため、フィラリア症の重症度判定や治療後の経過観察にも有用です。
まとめ
フィラリア感染犬の肺高血圧評価では、三尖弁逆流速度(TR velocity)が重要な指標ですが、それだけでは十分ではありません。
肺動脈拡大、PA/Ao比の上昇、肺動脈血流パターンの変化、右房・右室拡大、心室中隔平坦化などを総合的に確認することで、肺高血圧の可能性をより正確に判断できます。
臨床では複数の心エコー所見を組み合わせ、フィラリア感染による右心負荷の程度や予後を評価することが重要です。


コメント