大学化学のIRスペクトル完全入門|伸縮振動と変角振動の見分け方をPETを例にわかりやすく解説

化学

大学の化学や高分子材料の授業でIR(赤外吸収)スペクトルを学び始めると、「伸縮振動」「変角振動」「対称伸縮」「逆対称伸縮」などの専門用語が一気に登場します。しかし、これらは原子同士がどのように動いているかを表したものに過ぎません。この記事では、IRスペクトルの基本的な見方から、伸縮振動と変角振動の違い、さらにPET(ポリエチレンテレフタレート)を例にしたピークの読み取り方まで解説します。

IRスペクトルとは何か

IRスペクトル(赤外吸収スペクトル)は、分子が赤外線を吸収したときに起こる振動を測定したものです。

横軸には波数(cm⁻¹)、縦軸には透過率または吸光度が表示されます。ピークが現れる位置によって、どの官能基や結合が存在しているのかを推定できます。

たとえばPETではエステル結合やベンゼン環が存在するため、それら特有の吸収ピークが現れます。

伸縮振動と変角振動の違い

IRスペクトルで最も重要なのが伸縮振動(stretching vibration)と変角振動(bending vibration)の区別です。

種類 動き 特徴
伸縮振動 結合長が伸びたり縮んだりする 比較的高波数側に現れる
変角振動 結合角度が変化する 比較的低波数側に現れる

例えばC=O結合がバネのように伸びたり縮んだりするのが伸縮振動です。

一方でH-C-Hの角度が開いたり閉じたりするような動きは変角振動です。

波数からある程度予測できる

一般的に高波数側ほど強い結合の伸縮振動が現れます。

  • 3700〜3000cm⁻¹:O-H、N-H、C-H伸縮振動
  • 2300〜2000cm⁻¹:三重結合の伸縮振動
  • 1850〜1650cm⁻¹:C=O伸縮振動
  • 1600〜600cm⁻¹:変角振動や骨格振動

そのため、1700cm⁻¹付近に大きなピークがあれば、まずカルボニル基(C=O)の伸縮振動を疑います。

PETのIRスペクトルを例に考える

PET(ポリエチレンテレフタレート)は飲料ボトルなどに使用される高分子で、エステル結合と芳香環を含んでいます。

代表的な吸収ピークは以下の通りです。

波数 帰属 振動の種類
約1715cm⁻¹ C=O 伸縮振動
約1240cm⁻¹ C-O 伸縮振動
約1410cm⁻¹ ベンゼン環 変角振動
約870cm⁻¹ 芳香環C-H 面外変角振動

特に1715cm⁻¹付近の強いピークはPETの特徴的なカルボニル基の伸縮振動です。

逆に800〜1000cm⁻¹付近に現れるピークは、結合角が変化する変角振動であることが多くなります。

対称伸縮と逆対称伸縮とは

複数の同じ結合が存在すると、対称伸縮と逆対称伸縮が発生します。

対称伸縮は複数の原子が同じ方向に同時に動く振動です。

逆対称伸縮は一方が伸びるときに他方が縮む振動です。

一般的には逆対称伸縮の方が高波数側に現れる傾向があります。

IRスペクトルの勉強法

最初から全てのピークを覚える必要はありません。

  1. まず官能基の代表波数を覚える
  2. 高波数側は伸縮振動と考える
  3. 低波数側は変角振動と考える
  4. 既知試料のスペクトルを何枚も見る

PET、PE、PPなどの代表的な高分子のスペクトルを比較すると、振動の種類とピーク位置の関係が理解しやすくなります。

まとめ

IRスペクトルでは、結合が伸び縮みするものを伸縮振動、結合角度が変化するものを変角振動と呼びます。一般的には高波数側に伸縮振動、低波数側に変角振動が現れます。PETでは1715cm⁻¹付近のC=O伸縮振動が代表的なピークであり、800〜1000cm⁻¹付近には芳香環由来の変角振動が見られます。ピーク位置と官能基の対応を覚えながら実際のスペクトルを繰り返し確認することが理解への近道です。

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