東京大学のシンボルとして知られる安田講堂は、「ゴシック様式」と説明されることが多い一方で、「アール・デコっぽい」と感じる人も少なくありません。実際、安田講堂には20世紀初頭特有の近代建築的な要素も含まれているため、建築史を学び始めた人ほど混乱しやすい建物です。この記事では、安田講堂がなぜゴシック系と説明されるのか、そしてアール・デコとどう違うのかを整理します。
安田講堂とはどんな建築なのか
安田講堂(正式名称:東京大学大講堂)は、1925年に完成した建築です。
設計には東京帝国大学営繕課が関わり、内田祥三(うちだよしかず)の影響が強いことで知られています。
特に重要なのが、安田講堂が「内田ゴシック」と呼ばれる建築様式の代表例である点です。
つまり、単純な中世ゴシック建築のコピーではなく、日本の近代大学建築として再構成されたゴシック系デザインなのです。
そもそもアール・デコ建築とは?
アール・デコは1920〜30年代に流行した装飾様式です。
特徴としては。
- 幾何学模様
- 直線的デザイン
- 機械文明的な美しさ
- 装飾の簡略化
- 左右対称性
などがあります。
例えばニューヨークのクライスラー・ビルなどは、典型的なアール・デコ建築として有名です。
豪華ではあるものの、中世教会のような宗教的装飾とはかなり方向性が異なります。
安田講堂が「アール・デコっぽい」と言われる理由
実際、安田講堂にはアール・デコに近いと感じられる部分があります。
例えば。
- 全体が直線的
- 装飾が比較的少ない
- 重厚で幾何学的
- 縦方向を強調している
といった点です。
特に塔部分のシルエットを見ると、20世紀前半のモダン建築に近い印象を受ける人もいます。
つまり、「時代的にアール・デコと重なっている」ため、雰囲気が似て見える部分は確かにあります。
では、なぜ安田講堂はアール・デコではないのか
安田講堂が純粋なアール・デコとされない最大の理由は、デザイン思想のベースがゴシック系だからです。
特に注目されるのが。
- 垂直性を強調する塔
- 尖塔的なシルエット
- 大学建築らしい荘厳さ
- 歴史主義建築の流れ
などです。
アール・デコは機械文明や近代性を強調する装飾様式ですが、安田講堂は「学問の権威性」「伝統的大学空間」を重視しています。
そのため、建築史的には「内田ゴシック」「簡略化されたゴシック系近代建築」と説明されることが多いです。
内田ゴシックとは何か
安田講堂を理解するうえで重要なのが「内田ゴシック」という言葉です。
これは、内田祥三が東京大学キャンパスで展開した独特の大学建築様式を指します。
特徴としては。
- 茶褐色タイル
- 重厚感
- ゴシック的垂直性
- 鉄筋コンクリート化
などがあります。
つまり、中世ヨーロッパの石造ゴシックを、そのまま再現したわけではありません。
近代日本の大学建築として合理化・簡略化されたゴシックと考えると分かりやすいです。
ゴシック建築との違いもある
一方で、安田講堂は純粋なゴシック建築とも違います。
例えばヨーロッパ中世ゴシックに多い。
- ステンドグラス中心構成
- 飛梁(フライング・バットレス)
- 過剰な彫刻装飾
などは見られません。
そのため、「ゴシックそのもの」というよりは、「ゴシックの雰囲気を近代建築として再解釈した建物」と言ったほうが実態に近いです。
建築様式は一つに分類できないことも多い
建築史では、一つの建物に複数の様式的特徴が混ざることは珍しくありません。
特に20世紀前半は。
- 歴史主義
- 近代化
- 装飾簡略化
- 新素材利用
が同時進行していました。
そのため安田講堂も、「ゴシック系だがモダン要素もある」「アール・デコ時代の空気感を持つ」と表現されることがあります。
実際、建築を見た人によって「アール・デコっぽい」と感じるのは不自然ではありません。
まとめ
安田講堂は、時代的にアール・デコ期と重なっており、直線的で重厚なデザインからアール・デコ風に見える部分があります。
しかし建築史的には、機械文明的・幾何学装飾中心のアール・デコというより、「内田ゴシック」と呼ばれるゴシック系大学建築として理解されることが一般的です。
特に、学問的権威を象徴する垂直性や荘厳さなどは、ゴシック的思想に近い特徴です。
そのため、「アール・デコではない」というより、「ゴシック系をベースにしつつ、近代建築の影響も受けている建物」と考えると分かりやすいでしょう。


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