複素数平面の軌跡問題では、「割り算をすると偏角が引き算になる」という性質を使う場面が多くあります。しかし、その感覚だけで式を処理すると、思わぬ落とし穴にはまることがあります。
特に、平行移動された複素数を“そのまま原点基準で扱ってしまう”と、図形的には違う意味になってしまいます。
この記事では、|z|=1 のとき
v=(2z+i)/(z+i)
の軌跡問題を例に、「なぜ偏角が打ち消されるという考えが間違うのか」を図形的にわかりやすく解説します。
よくある誤解「中心(0,i)だから原点と同じ」
今回の考え方では、
2z+i と z+i はどちらも i だけ平行移動されている
↓
だから「中心(0,i)を原点とみなせば」
(2z)/(z)=2
となって偏角が消える
↓
よって v は一定値になる
という発想になっています。
一見もっともらしく見えますが、ここに重要な誤解があります。
複素数の「足し算」は図形を平行移動する
複素数 z+i は、単に z を上方向へ i だけ移動した点です。
つまり、
z → z+i
は「原点を変えている」のではなく、点そのものを移動しているだけです。
ここが非常に重要です。
複素数の割り算で偏角を考えるときは、
「どの点からどの点へのベクトルなのか」
を厳密に考える必要があります。
なぜ「2z+i」と「z+i」は比例しないのか
もし本当に偏角が完全に打ち消されるなら、
2z+i = k(z+i)
のように、常に一定倍の関係になっている必要があります。
しかし実際には、
2z+i = 2(z+i)-i
となり、単純な比例関係ではありません。
つまり、
- z+i は中心 i の周りを動く
- 2z+i は別の円を動く
ので、向きも長さも一定比にはなりません。
ここで「+i を無視して z のみで考える」ことができないのです。
複素数の割り算で偏角が消える条件
複素数の割り算で偏角が消えるのは、
w=az/bz
のように、分子と分母が同じ向きの複素数を含む場合です。
例えば、
(2z)/(z)=2
なら確かに z の偏角は消えます。
これは、
arg(2z)-arg(z)=0
だからです。
しかし、今回の
(2z+i)/(z+i)
では、
arg(2z+i)-arg(z+i)
となり、両者の向きは一般には一致しません。
つまり、偏角は打ち消されないのです。
図形的に見ると何が起きているのか
|z|=1 は単位円です。
z+i は、その単位円を上に i だけ平行移動した円を動きます。
一方で、2z+i は半径2の円を上に i だけ移動した図形です。
つまり、分子と分母は別々の円周上を動いています。
そのため、
- 長さ比
- 偏角差
の両方が変化します。
したがって、v は一点ではなく軌跡を描きます。
なぜ z=cosθ+isinθ で解くとうまくいくのか
z=cosθ+isinθ と置くと、z の動きを実数パラメータ θ で表現できます。
すると、
v=(2z+i)/(z+i)
を実部・虚部に分けたり、有理化したりして、実際にどんな軌跡になるかを正確に調べられます。
つまり、この方法は「偏角が消えるはず」という思い込みを使わず、式そのものを忠実に追っているため安全なのです。
複素数平面で特に注意したいポイント
複素数平面では、
- 足し算 → 平行移動
- 掛け算 → 拡大・回転
- 割り算 → 拡大率と偏角差
という役割があります。
このうち、「偏角がきれいに消える」のは掛け算・割り算部分だけです。
足し算が混ざると、図形の中心そのものが移動するため、単純な偏角処理ができなくなることがあります。
まとめ
「2z+i と z+i はどちらも i を含むから、原点を i に移せば偏角が消える」という考え方は、一見自然ですが、複素数の図形的意味を混同しているため成立しません。
複素数の足し算は“原点変更”ではなく“平行移動”です。そのため、
(2z+i)/(z+i)
を単純に 2z/z と同じようには扱えません。
複素数平面では、「どのベクトルを割っているのか」「本当に比例関係か」を丁寧に確認することが、軌跡問題で非常に重要になります。


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