ALI PROJECTの楽曲『ディレッタントの密かな愉しみ』の歌詞は、江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』に触発されていると言われています。歌詞の中には、暗くミステリアスで官能的なイメージが広がり、その内容が乱歩の作品とどのようにリンクしているのかが興味深いポイントです。本記事では、この歌詞の背後にある文学的な影響と、乱歩の『屋根裏の散歩者』との関係を掘り下げて考察していきます。
『屋根裏の散歩者』とそのテーマ
江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』は、自己の欲望と孤独をテーマにした小説であり、主人公が屋根裏から他人を監視するという異常な行動を描いています。作品の中で、監視者は自分の欲望を満たすために他者を観察し、その快感を得ていきます。このテーマは、ALI PROJECTの歌詞にも強く反映されています。
特に歌詞の中で「夜ごと軋む跫音」や「その眼が覗くとき」というフレーズは、まさに乱歩の小説における監視者の視点を象徴しており、どこか不気味でありながらも官能的な感覚を呼び起こします。乱歩の作品における「見ること」と「欲望」が、歌詞の表現にも影響を与えていることがわかります。
歌詞の中の「屋根裏の覗き見」とその象徴
歌詞に登場する「天井の屋根裏に小さな穴がある」という描写は、まさに『屋根裏の散歩者』を彷彿とさせます。屋根裏からの覗き見は、他人のプライバシーを侵害する行為であり、その行為自体が興奮を伴う快楽であるというテーマが描かれています。歌詞では、この覗き見が「誰の愛より甘く肌を焦がす熱病」と表現され、欲望が抑えきれない情熱に変わる様子が描かれています。
また、「埃まみれの髪を撫でてあげたいけど、けしてあなたはここにやっては来られない」という部分では、物理的には実現不可能な愛情を感じさせます。このフレーズは、乱歩の登場人物たちがしばしば抱える、手が届かない欲望を象徴しているようにも解釈できます。
歌詞に見られる官能的なテーマとその文学的背景
歌詞には官能的な要素が強く含まれており、「赤い蜥蜴が滑った背に暗いときめきを乗せて」というフレーズがその一例です。この表現は、乱歩作品にしばしば登場する官能的なイメージを反映しています。蜥蜴は一般的に「冷徹さ」や「異常さ」の象徴とされることが多く、歌詞の中でそのイメージを使うことで、さらに不気味で抑えきれない感情を強調しています。
乱歩の作品にも、登場人物が異常な欲望に取りつかれる描写が多くありますが、歌詞の「暗いときめき」や「魂だけ夢の奥へと墜ちていきましょう」という部分は、まさにそのような欲望が抑えきれずに深みに引き込まれる様子を表現しています。
歌詞の深層にある哀しみと孤独
歌詞の中には、非常に深い哀しみを感じさせるフレーズもあります。「碧くて遠い水の底のような哀しみ」という表現は、孤独で切ない感情を表しており、これもまた乱歩の作品に見られるテーマの一つです。乱歩の小説の多くでは、登場人物が孤独と向き合い、その中で自らの欲望を認めざるを得ない状況が描かれています。
このような哀しみと孤独感は、歌詞全体の不安定な雰囲気を作り出し、聴く人に強い印象を与えます。また、「欲しいものはその眼にある」という部分も、欲望とそれに伴う苦しみの間で揺れる心情を表現していると言えるでしょう。
まとめ
ALI PROJECTの『ディレッタントの密かな愉しみ』の歌詞は、江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』から強い影響を受けており、その文学的な要素が色濃く反映されています。歌詞の中には、乱歩作品に共通する欲望や監視、孤独といったテーマが込められており、リスナーに深い感情を呼び起こすような内容となっています。歌詞の中で描かれる不気味で官能的な世界観は、乱歩の小説と同じように、心の奥深くに潜む暗い欲望を探る旅へと誘ってくれるのです。
コメント