複素正方行列のスペクトル半径と随伴行列の関係:r(A)^2 ≤ r(A*A) の証明

数学

複素正方行列におけるスペクトル半径と随伴行列の関係性は、線形代数や関数解析の分野で重要なテーマの一つです。特に、行列 A のスペクトル半径 r(A) と、その随伴行列 A* を用いた積 A*A のスペクトル半径との間には、興味深い不等式が存在します。本記事では、r(A)^2 ≤ r(A*A) という不等式の証明を通じて、これらの概念の理解を深めていきます。

スペクトル半径の定義と基本性質

まず、行列 A のスペクトル半径 r(A) は、A の全ての固有値の絶対値の最大値として定義されます。すなわち、r(A) = max{|λ| : λ は A の固有値} です。

この定義から、スペクトル半径は行列のノルムに関する上限を提供することが知られています。特に、任意の行列ノルム ||·|| に対して、r(A) ≤ ||A|| が成り立ちます。

随伴行列と A*A の性質

複素正方行列 A に対して、その随伴行列 A* は、A の共役転置行列として定義されます。すなわち、A* = (A)^H = (Ā)^T です。

このとき、A*A はエルミート行列(自己随伴行列)となり、全ての固有値が実数であり、さらに非負となります。これは、A*A が正定値または半正定値行列であることを意味します。

不等式 r(A)^2 ≤ r(A*A) の証明

行列 A の固有値を λ とし、対応する固有ベクトルを x とします。すなわち、A x = λ x です。このとき、A*A x = A* (A x) = A* (λ x) = λ A* x となります。

さらに、A*A x = λ̄ λ x = |λ|^2 x となるため、x は A*A の固有ベクトルであり、対応する固有値は |λ|^2 です。したがって、A の各固有値 λ に対して、A*A の固有値として |λ|^2 が存在します。

このことから、r(A*A) ≥ max{|λ|^2} = (max{|λ|})^2 = r(A)^2 が成り立ちます。すなわち、r(A)^2 ≤ r(A*A) です。

具体例による確認

具体的な行列を用いて、この不等式を確認してみましょう。例えば、行列 A を以下のように定義します。

A = [[0, 1], [0, 0]]

この行列の固有値は全て 0 であり、r(A) = 0 です。一方、A*A = [[0, 0], [0, 1]] となり、固有値は 0 および 1 です。したがって、r(A*A) = 1 となり、r(A)^2 = 0 ≤ 1 = r(A*A) が確認できます。

まとめ

複素正方行列 A に対して、スペクトル半径 r(A) と随伴行列を用いた積 A*A のスペクトル半径 r(A*A) との間には、r(A)^2 ≤ r(A*A) という不等式が成り立ちます。この関係は、行列の固有値とその随伴行列の性質を理解する上で重要な結果であり、線形代数や関数解析の分野で広く応用されています。

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