『平家物語』には、現代の日本語とは異なる表現や、当時の文化背景を知らないと理解しにくい言葉が多く登場します。特に人物描写や会話部分では、単語の意味だけではなく、文章全体の流れから意味を読み取る力が求められます。
平維盛が都落ちの際に妻子と別れる場面では、家族への深い愛情や悲しみが描かれており、その中に「又人あるべしとも見え給はず」や「様などかへ給ふ事」といった古文特有の表現があります。
この記事では、この二つの表現について、古文の知識が少ない人でも理解できるように、文脈や当時の言葉の使われ方から詳しく解説します。
「又人あるべしとも見え給はず」の意味
問題の①の表現「又人あるべしとも見え給はず」は、直訳すると「もう別の人がいるだろうともお見えにならない」という意味になります。
ここで重要なのは、「又」を現代語の「再び」「また」とそのまま考えないことです。この場合の「又」は「ほかに」「これ以上の」という意味で使われています。
つまり、「又人あるべしとも見え給はず」は、「この人(北の方)以上に素晴らしい女性が、ほかにいるとは思えない」という意味になります。
「又」の意味を知らなくても文脈から判断できる理由
古文では、単語の意味を一つ一つ覚えるだけではなく、前後の文章から内容を推測することが大切です。
この場面では、北の方について「桃顔露にほころび、紅粉眼に媚をなし、柳髪風に乱るるよそほひ」と、美しい容姿を非常に細かく描写しています。
「桃のような顔色」「化粧をした美しい目」「風になびく美しい髪」という表現が続いているため、作者が北の方を絶賛していることが分かります。その直後に「又人あるべしとも見え給はず」とあるため、「これほど美しい人は他にはいない」という意味だと判断できます。
つまり、仮に「又」の意味を知らなくても、「これ以上ないほど美しい人として描かれている」という流れをつかめば、自然に意味を推測できます。
古文の「見え給はず」は単なる見た目の話ではない
「見え給はず」は、現代語の「見えない」と同じように感じますが、古文では「〜と思われる」「〜のように感じられる」という意味で使われることがあります。
そのため、「又人あるべしとも見え給はず」は、「他にこのような人がいるとは思われない」という意味になります。
また、「給ふ」は尊敬語なので、北の方という身分の高い人物への敬意も含まれています。単純に外見だけではなく、身分や人柄も含めて非常に優れた女性として表現されているのです。
「様などかへ給ふ事」の意味と「ン」の正体
②の「様なンどかへ給ふ事」の小さい「ン」は、現代の「ん」と同じ意味ではありません。これは古文の表記で「など」の「ど」と「か」の間に入った音で、特別な助動詞ではありません。
原文では「様などかへ給ふ事」と読むことができます。「なンど」は「など」の発音を表したもので、意味を変えるものではありません。
つまり、「ン」があるから特別な文法になるわけではなく、古い文章の表記上の特徴として入っているだけです。
なぜ「様を変ふ」という意味になるのか
「様(やう)」は古文では「姿」「状態」「あり方」「境遇」という意味があります。現代語の「様子」に近い言葉です。
そのため、「様をかふ(変ふ)」とは、「姿や状態を変える」「別の状態になる」という意味になります。
この場面で維盛が言っているのは、「たとえ自分が討たれたと聞いても、決して(再婚するなどして)身の置き方を変えてはいけない」という趣旨です。
平家物語の場面で維盛が伝えたかったこと
維盛は、これから戦いに向かうため、妻子を連れて行くことができませんでした。そのため、残される家族の将来を心配して別れの言葉を述べています。
「道にも敵が待っているので、安全に進むことは難しい」と話し、自分が亡くなった場合でも妻が別の人生を歩むことを禁じるほど、当時の武士社会における家族への思いや名誉意識が表れています。
この背景を理解すると、「様などかへ給ふ事」は単なる外見の変化ではなく、「人生や立場を変えること」を意味していると分かります。
古文読解では単語よりも文章全体を見ることが重要
今回の表現のように、古文では知らない単語が出てきても、前後の内容から意味を推測できる場合があります。
例えば、「美しい女性を褒める描写」の直後なら、「又人あるべしとも見え給はず」は悪い意味ではなく、「ほかにいないほど素晴らしい」という方向で解釈できます。
また、会話文では登場人物の置かれている状況を考えることで、言葉の意味がより明確になります。
まとめ
「又人あるべしとも見え給はず」は、「これほど素晴らしい人は他にいるとは思えない」という意味で、北の方の美しさを最大限にほめた表現です。
「様などかへ給ふ事」の「ン」は特別な意味を持つものではなく、「など」の表記上の特徴です。「様を変ふ」は「姿や状態、人生のあり方を変える」という意味になります。
『平家物語』の古文読解では、単語の意味だけでなく、登場人物の状況や文章全体の流れを見ることで、難しい表現も理解しやすくなります。


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