距離関数ではないけれど距離に似た関数とは?準距離・擬距離・半距離をわかりやすく解説

数学

数学では、2点間の「距離」を表すように見える関数でも、厳密な距離関数の条件をすべて満たさないものがあります。これらは距離の概念を少し緩めたもので、解析学や幾何学、情報科学などでも重要な役割を持っています。この記事では、距離関数の公理を確認しながら、それを一部満たさない代表的な例について分かりやすく解説します。

まず距離関数が満たす4つの条件とは

距離関数(metric)とは、集合X上の2点x,yに対して距離d(x,y)を対応させる関数で、通常は以下の4つの条件を満たします。

1. 非負性
d(x,y)は常に0以上である。

2. 同一性
d(x,y)=0となるのはx=yの場合だけである。

3. 対称性
d(x,y)=d(y,x)が成立する。

4. 三角不等式
d(x,z)≦d(x,y)+d(y,z)が成立する。

これらをすべて満たすものが、数学でいう正式な距離関数です。しかし、実際の数学では目的に応じて一部の条件を緩めた関数も多く使われています。

擬距離(pseudo-metric)は同じでない点の距離が0になる

距離関数に最も近い例として、擬距離(pseudo-metric)があります。

擬距離は、非負性・対称性・三角不等式は満たしますが、「距離0なら同じ点」という条件を満たさないことがあります。

つまり、xとyが異なる点なのに、d(x,y)=0になる場合があります。

具体例として、ある関数空間で「関数の値がほとんど同じなら距離0とみなす」というような定義をすると、異なる対象でも距離0になることがあります。

擬距離は、完全に同じものだけを近いと考えるのではなく、「区別する必要がないものを同一視する」場面で便利です。

半距離(semimetric)は三角不等式を満たさないことがある

半距離(semimetric)や距離に近い関数では、三角不等式を捨てる場合があります。

通常の距離では、「AからCへ直接行く距離は、AからB、BからCへ移動する距離より長くない」という性質があります。

しかし、半距離ではこの条件が成立しないことがあります。

例えば、文字列の比較などで使われる類似度では、途中の変換を考えると通常の距離とは異なる振る舞いをする場合があります。

準距離(quasi-metric)は対称性を失う

準距離(quasi-metric)は、距離関数の条件のうち対称性を緩めたものです。

つまり、d(x,y)とd(y,x)が一致しなくてもよいという考え方です。

現実世界では、移動距離やコストなどは必ずしも対称ではありません。

例えば、道路の移動時間を考えると、A地点からB地点まで30分でも、B地点からA地点までは渋滞や一方通行の影響で50分かかることがあります。

このような場合、d(A,B)≠d(B,A)となるため、通常の距離関数ではありませんが、準距離として扱うことができます。

距離に似た重要な関数「ダイバージェンス」

距離関数ではないものの、2つの対象の違いを測るためによく使われるものにダイバージェンスがあります。

代表例として情報理論で使われるカルバック・ライブラー情報量(KLダイバージェンス)があります。

KLダイバージェンスは、2つの確率分布PとQの違いを表す量ですが、一般的な距離とは異なり、対称性を持ちません。

D(P||Q)とD(Q||P)は通常異なる値になります。また、三角不等式も成立しません。

それでも「どれくらい異なるか」を測る尺度として非常に有用で、機械学習や統計学で広く利用されています。

なぜ距離の条件をわざと緩めるのか

距離関数の条件は、数学的に扱いやすい性質を保証するために設定されています。しかし、現実の問題ではすべての条件が必要とは限りません。

例えば、画像認識では画像同士の似ている度合い、自然言語処理では文章同士の近さ、機械学習ではデータ間の違いを測る必要があります。

その際、厳密な距離よりも目的に合った「距離のような量」を使ったほうが便利な場合があります。

つまり、距離関数の公理を満たさない関数は不完全な距離というより、別の目的に適した数学的道具として利用されているのです。

まとめ

距離関数に似ているけれど、一部の公理を満たさない関数には、擬距離、半距離、準距離、ダイバージェンスなどがあります。

擬距離は「違うものでも距離0になる」ことを許し、準距離は「方向によって距離が変わる」ことを許します。また、ダイバージェンスは距離のように違いを測りますが、対称性や三角不等式を満たしません。

これらは距離関数の代用品ではなく、数学や情報科学のさまざまな場面で必要に応じて使われる重要な概念です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました