SF作品では、地球とは異なる進化をした生命体が登場し、私たちとは違う血液や身体構造を持っていることがあります。その中でも「酸素を運ぶヘモグロビンが鉄ではなく銅になっている生物」という設定は、実際の生物学と照らし合わせると興味深いテーマです。この記事では、ヘモグロビンと銅の関係、銅を利用して酸素を運ぶ生物の存在、そして銅を使った血液で生命を維持できる可能性について解説します。
人間の血液で酸素を運ぶヘモグロビンとは
人間を含む多くの脊椎動物では、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンというタンパク質が酸素を運搬しています。ヘモグロビンの中心には鉄原子が存在しており、この鉄が酸素と結合することで、肺から全身の細胞へ酸素を届けています。
鉄を含むヘモグロビンは非常に効率的な酸素運搬システムです。酸素を取り込む能力と、必要な場所で酸素を放出する性質のバランスが優れているため、地球上の多くの動物がこの仕組みを利用しています。
そのため、人間のヘモグロビンに含まれる鉄を単純に銅へ置き換えた場合、同じように機能するとは考えにくいです。
銅を使って酸素を運ぶ生物は実際に存在する
一方で、自然界には鉄ではなく銅を利用して酸素を運ぶ生物が存在します。それがエビやカニ、イカ、タコなどの一部の軟体動物や節足動物です。
これらの生物は、ヘモグロビンではなく「ヘモシアニン」という別のタンパク質を使っています。ヘモシアニンは中心部分に銅を含み、酸素と結合すると青色になる特徴があります。
例えば、タコやカブトガニの血液が青く見えることがありますが、これはヘモシアニンによるものです。つまり、酸素運搬に銅を使う生命システムは、現実の地球にも存在しています。
鉄の血液と銅の血液では何が違うのか
鉄を利用するヘモグロビンと銅を利用するヘモシアニンは、どちらも酸素を運ぶ役割を持っていますが、性能には違いがあります。
ヘモグロビンは赤血球の内部に大量に存在し、高い酸素運搬能力を発揮します。一方、ヘモシアニンは血液中に直接溶けていることが多く、酸素を運ぶ効率はヘモグロビンより低いとされています。
しかし、低温環境や酸素量が少ない環境では、ヘモシアニンが有利になる場合があります。実際に、深海に暮らす生物などでは銅を使った酸素運搬システムが適応しています。
人間のヘモグロビンを銅に置き換えることは可能なのか
人間の身体で、ヘモグロビンの鉄を銅に置き換えるだけでは生命を維持することは難しいと考えられます。理由は、ヘモグロビンというタンパク質の構造自体が鉄を利用する前提で作られているためです。
例えば、自動車のエンジンに別の燃料を入れるだけでは正常に動かないように、生物の仕組みも部品だけを交換すれば動くわけではありません。血液中のタンパク質、細胞の仕組み、酸素消費量など全体が対応している必要があります。
ただし、進化の過程で最初から銅を利用する身体構造を持った生物であれば、酸素運搬に銅を使うことは十分可能です。実際に地球上でもそのような生物が存在しています。
銅を使う血液で人間型生物は成立するのか
SF作品に登場するような、人間に近い体格を持ちながら銅を利用する血液を持つ生物が存在できるかについては、条件次第では理論上可能性があります。
ただし、人間と同じように高い運動能力を持ち、大きな脳を維持し、高い代謝を行う生物の場合、酸素供給能力が重要になります。そのため、銅を利用する場合はヘモシアニンの量を増やす、血液量を増やす、呼吸器官を発達させるなど、身体全体の設計が変化する必要があります。
つまり「銅の血液を持つ生命体」は科学的に不可能ではありませんが、人間の身体の一部だけを銅化するような形では成立しにくいと考えられます。
銅の血液と不可視化などのSF設定について
銅を含む血液によって物質が透明になる、あるいは不可視になるという現象は、現在知られている科学では説明できません。
物体を見えなくするには、光の反射や透過を制御する必要があります。血液中の金属元素が変化しただけで、その血液を浴びた物体全体の光学的性質が変化することはありません。
ただし、異なる進化をした生命体が特殊な物質を体内で生成するという設定自体は、SFとしては非常に魅力的なアイデアです。現実の生物学でも、発光する生物や毒を作る生物など、人間にはない能力を持つ生物は多数存在します。
まとめ:銅を使う血液は実在するが、人間の血液を銅化するだけでは生きられない
酸素を運ぶ仕組みに銅を利用する生物は実際に存在し、エビやカニ、タコなどはヘモシアニンによって酸素を運んでいます。そのため、「銅で酸素を運ぶ生命」という考え自体は科学的にあり得ないものではありません。
しかし、人間のヘモグロビンを鉄から銅へ置き換えるだけでは、正常な生命活動を維持することは難しいと考えられます。身体全体が銅利用型の仕組みに進化している必要があります。
SFに登場する異星人や異世界の生物設定は、現実の生物学を基に考えることで、さらに興味深く楽しむことができます。


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