犬の慢性炎症性疾患では、外見上の出血が見られないにもかかわらず貧血を発症することがあります。この現象は「慢性疾患に伴う貧血(炎症性貧血)」と呼ばれ、感染症や自己免疫疾患、慢性的な炎症を伴う病気でよく見られます。この記事では、なぜ炎症があるだけで貧血になるのか、その仕組みをわかりやすく解説します。
慢性炎症による貧血とは
慢性炎症による貧血は、体内で長期間炎症反応が続くことによって生じる貧血です。
出血によって赤血球が失われるわけではなく、炎症に伴う生体防御反応が赤血球の産生や鉄の利用に影響を与えることで発症します。
そのため、体内に鉄が存在していても赤血球を十分に作れなくなることがあります。
炎症によって鉄が利用できなくなる仕組み
慢性炎症が続くと、体内ではサイトカインと呼ばれる炎症性物質が増加します。
その影響で肝臓から「ヘプシジン」というホルモンが多く分泌されます。
ヘプシジンは鉄の吸収や放出を抑制する働きがあり、鉄が肝臓やマクロファージ内に閉じ込められます。
結果として骨髄は赤血球を作るための鉄を十分に利用できず、貧血が進行します。
| 正常時 | 慢性炎症時 |
|---|---|
| 鉄が骨髄へ運ばれる | 鉄が体内に隔離される |
| 赤血球産生が正常 | 赤血球産生が低下 |
赤血球を作る働きそのものも低下する
炎症性サイトカインは鉄代謝だけでなく、赤血球を産生する骨髄にも影響を与えます。
通常、腎臓から分泌されるエリスロポエチンというホルモンが骨髄に働きかけて赤血球産生を促進します。
しかし慢性炎症下ではエリスロポエチンの産生や作用が低下し、赤血球が十分に作られなくなります。
つまり、赤血球の材料不足と生産能力低下が同時に起こるのです。
赤血球の寿命が短くなることもある
犬の慢性炎症では、赤血球の寿命が通常より短縮することがあります。
炎症によって活性化された免疫細胞が古い赤血球をより早く処理するためです。
通常であれば骨髄が新しい赤血球を補充しますが、慢性炎症下では補充能力も低下しているため、結果的に貧血が目立つようになります。
実際によく見られる疾患例
慢性炎症性貧血はさまざまな疾患で認められます。
- 慢性細菌感染症
- 歯周病
- 自己免疫疾患
- 慢性腎臓病
- 慢性皮膚炎
- 腫瘍性疾患
例えば慢性的な歯周病を抱える高齢犬では、目立った出血がなくても血液検査で軽度から中等度の貧血が見つかることがあります。
この場合は単純な鉄剤投与だけでなく、炎症の原因そのものを治療することが重要です。
まとめ
犬の慢性炎症性疾患で出血がないにもかかわらず貧血が起こるのは、炎症によって鉄の利用が妨げられ、赤血球産生が抑制されるためです。
さらに赤血球寿命の短縮も加わり、慢性的な貧血状態に陥ります。
このような貧血は単なる鉄不足とは異なるため、根本となる炎症性疾患の診断と治療が改善の鍵となります。


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