式亭三馬の『浮世風呂』を読んでいると、現代では使われない江戸語や当時特有の言い回しが多く登場します。
その中でも、「ざくろ口をはいるすぐにそゝりぶしなり」という一文は、区切り方や意味がわかりにくく、古文に慣れていても悩みやすい表現です。
特に「そゝりぶしなり」が、
- 「そゝりぶ、しなり」なのか
- 「そゝりぶし、なり」なのか
で迷う人は少なくありません。
この記事では、『浮世風呂』の該当箇所について、正しい読み方・意味・現代語訳を、辞典資料をもとに整理して解説します。
結論:「そゝりぶし、なり」と読むのが自然
まず結論からいうと、この箇所は一般的に、
「そゝりぶし、なり」
と区切るのが自然です。
つまり、
- そゝりぶし(名詞)
- なり(断定の助動詞)
という構造になります。
「しなり」という一語ではなく、「そゝりぶし」という語に断定の「なり」が付いている形です。
「そゝりぶし」とは何か
「そゝりぶし」は、江戸語・近世語で使われた語で、
「傾斜した場所」「斜面」「傾いている部分」
という意味があります。
『日本国語大辞典』や近世語辞典では、「そそり」は“斜めになっていること・そびえること”を表す語として説明されています。
また、「ぶし(節)」には「部分」「箇所」という意味があります。
つまり「そゝりぶし」は、
「傾斜している箇所」
という意味になります。
「ざくろ口をはいるすぐに」との関係
『浮世風呂』の文脈では、「ざくろ口」は銭湯の入り口部分を指します。
江戸時代の銭湯は、現在と構造が異なり、入口付近に段差や傾斜が設けられていることがありました。
そのため、
「ざくろ口をはいるすぐにそゝりぶしなり」
は、現代語にすると、
「ざくろ口を入るとすぐに傾斜した場所になっている」
という意味になります。
つまり、浴場内部の構造説明をしている場面です。
なぜ「そゝりぶ、しなり」とは考えにくいのか
一方で、「そゝりぶ、しなり」と切る解釈は、文法上や語彙上やや不自然です。
理由としては、
- 「そゝりぶ」という独立した動詞が一般的でない
- 「しなり」が意味を取りにくい
- 近世語では「〜ぶし」が場所・部分を表す例がある
などが挙げられます。
また、『浮世風呂』は会話体や江戸俗語が多く、名詞句+「なり」で情景説明する文体がよく見られます。
そのため、「そゝりぶし+なり」という解釈の方が、作品の文体にも合っています。
参考になる辞典・資料
この語を調べる際には、以下のような辞典が参考になります。
- 『日本国語大辞典』
- 『近世語大辞典』
- 『古語大辞典』
- 『江戸語辞典』
特に『日本国語大辞典』では、「そそり」に「斜面・傾斜」に関係する説明があります。
また、「節(ぶし)」が「箇所・部分」を表す用法は近世文学でも見られます。
研究資料としては、国文学研究資料館の本文データや注釈本も参考になります。
『浮世風呂』は江戸語の知識が重要
『浮世風呂』は、江戸庶民の会話をリアルに描いた作品として有名ですが、その分、現代人にはわかりにくい俗語や口語が大量に登場します。
学校古文で扱う平安文学とはかなり違い、
- 江戸時代特有の言い回し
- 銭湯文化の用語
- 庶民語
などを知っていると理解しやすくなります。
そのため、単純な文法だけでなく、「江戸時代の生活背景」を意識すると読みやすくなる作品でもあります。
まとめ
『浮世風呂』の「ざくろ口をはいるすぐにそゝりぶしなり」は、一般的には、
「そゝりぶし、なり」
と区切って読むのが自然です。
「そゝりぶし」は、「傾斜した箇所・斜面の部分」という意味で、文全体としては、
「ざくろ口を入るとすぐに傾斜した場所になっている」
という現代語訳になります。
『浮世風呂』は江戸語や庶民文化が色濃く反映された作品のため、古語辞典だけでなく近世語辞典や江戸語辞典を参照すると、より納得しやすく理解できます。


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