アフリカ水牛（African buffalo）は家畜になっているか？現状とその理由

アフリカに生息する大型ウシ科動物、（African buffalo）は、「家畜にできるか」「海外で家畜化されているか」という疑問をよく見かけます。本記事では、現在の学術的な理解や歴史、アフリカ水牛の性質から、「家畜化されていない」という結論を示します。

アフリカ水牛とはどんな動物か

アフリカスイギュウは、サハラ以南のアフリカ各地に広く分布するウシ科の野生動物です。オスでは体重が最大で約680kgにもなる大型個体がおり、角は太く湾曲、頭頂部で骨の盾（“boss”）を形成するのが特徴です。[参照]

習性としては群れで移動し、水辺や湿地帯を好み、泥浴びをするなど、野生での生活に適応した構造と行動様式をもっています。非常に警戒心が強く、しばしば攻撃性・気性の荒さが指摘されています。[参照]

「家畜化」とは人間が長期間にわたり、特定の動物を飼育・繁殖させ、性格や形質を選択して固定化し、農畜産や労働力として利用できるようにした過程を指します。[参照]

この選択育種や管理下での繁殖が成功すれば、人間にとって有用な資源（肉・乳・労働力など）として安定供給できるようになります。しかし、その動物が野生のままでは、性格・生態・繁殖サイクルなどが適さないと、家畜化は難しくなります。

多くの研究・文献は、アフリカスイギュウには「家畜化された例がない」ことを指摘しています。[参照] その主な理由として、気性の荒さ・予測困難な性格が挙げられています。実際、彼らは人間が容易に管理・統制できる性質ではないとされています。[参照]

また、伝統的に家畜化されてきたのは、アフリカ水牛とは遺伝的に別種である（water buffalo）である、という点も重要です。アジア水牛はおよそ5000年以上前から家畜化されており、農耕社会と深く結びついてきました。[参照]

歴史的には、アジア水牛がアフリカなどに持ち込まれた例はあります。一方で、アフリカ水牛を家畜資源として導入しようとする試みもあったようですが、ほとんどは失敗に終わっています。[参照]

多くの国で導入された水牛は短期間で姿を消したか、あるいは疾病、馴化の失敗、経済的・管理上の負担などの理由で飼育は継続されなかったことが報告されています。これは「家畜化には長期にわたる選抜と管理」が必要で、それが成立しなかった好例です。

アジアスイギュウは、泥田や湿地での作業に適した体型やおとなしい性格、そしてヒトとの協調性をもっていたため、古くから耕作や乳・肉・皮の利用に適していました。[参照]

それに対し、アフリカ水牛はその野生性、気性の激しさ、体格・行動様式の点で、人間が多頭を統制・繁殖する「家畜」とするには非常にハードルが高かったと考えられています。

結論として、アフリカ水牛はこれまでに家畜化された例はなく、今日においても「家畜として飼われている」という一般的な状況は確認されていません。

その理由は、性格や生態が人間の管理・繁殖に向かないこと、そして家畜化に必要な長期の選抜・統制が行われなかったことにあります。したがって、「海外でアフリカ水牛が家畜にされている」という話は、信頼できる実例としては存在しないというのが、現在の科学的・歴史的な理解です。