変圧器の学習をしていると、「巻き数の比と電圧の比が等しい」「電圧と電流の積(電力)は一定」という関係を習います。しかし、このとき『同じ導線でも抵抗が変わるのでは?』と疑問に思う人も多いでしょう。この記事では、変圧器の原理と見かけ上の抵抗の変化について、実際の物理現象とあわせて詳しく解説します。
1. 変圧器の基本原理をおさらい
変圧器(トランス)は、交流電流の電圧を上げ下げするための装置です。一次コイルと二次コイルの巻き数の比により、電圧と電流の関係が次のように決まります。
- 電圧の比:V₁ / V₂ = N₁ / N₂
- 電流の比:I₁ / I₂ = N₂ / N₁
つまり、電圧を上げると電流は減り、電圧を下げると電流は増えます。これにより、全体の電力(V×I)はほぼ一定に保たれます。
2. 「抵抗が変わる」と感じる理由
質問にあるように、「電圧と電流の比が変わるのなら、抵抗(R = V/I)が変わるのでは?」という疑問が生まれます。結論から言えば、導線そのものの抵抗は変わりません。導線の抵抗は、材質・長さ・断面積で決まる物理的な値だからです。
しかし、変圧器を通して見たときに「見かけ上の抵抗(インピーダンス)」が変わるように見えるのです。これは、変圧器が電圧と電流のバランスを変えて伝えるため、一次側から見た電気的な性質が異なって見えるからです。
3. 見かけの抵抗(インピーダンス変換)の仕組み
変圧器は、電圧と電流の比を巻き数比によって変換します。そのため、二次側に接続された抵抗R₂は、一次側から見ると次のように「変換された抵抗R₁」として見えます。
R₁ = (N₁ / N₂)² × R₂
たとえば、二次コイルが一次コイルの半分の巻き数だった場合(N₂ = N₁/2)、見かけ上の抵抗は4分の1になります。これはあくまで「変圧器を通して見たときの見かけの値」であり、実際の抵抗器や導線の抵抗そのものが変わるわけではありません。
4. 実際の例で理解する
例えば、100Vを入力して10Vを出力する変圧器に、10Ωの負荷を接続したとします。
- 二次側では、V₂ = 10V、I₂ = 1A(10V ÷ 10Ω)
- 一次側では、V₁ = 100Vなので、I₁ = 0.1A(電力一定:100V×0.1A=10V×1A)
このとき、一次側から見た見かけの抵抗は V₁ / I₁ = 1000Ω となります。負荷の10Ωが、変圧器を通すことで100倍に見えるわけです。これが「インピーダンス変換」と呼ばれる現象です。
5. 導線の抵抗は変わらない理由
導線の抵抗Rは、次の式で求められます。
R = ρ × (L / A)
ここで、ρは抵抗率、Lは導線の長さ、Aは断面積です。これらの物理的性質が変わらない限り、抵抗値は一定です。つまり、変圧器によって変化しているのは「見かけ上の電気的特性」であり、導線自体の抵抗ではありません。
6. まとめ
変圧器における電圧と電流の関係から、「抵抗が変わるのでは?」という疑問は自然なものです。しかし、実際には導線や負荷の物理的抵抗は変わらず、巻き数比に応じて見かけの抵抗(インピーダンス)が変換されるだけです。この仕組みを理解することで、変圧器がどのように電力を効率的に伝えているのかが見えてきます。

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