物理の力学問題では「作用反作用」をどう扱うかで混乱しやすい場面が多くあります。特に、人がロープを引いて自分と板・荷物を持ち上げる問題では、「考えるべき力」と「考えてはいけない力」の区別が重要です。本記事では、人に働く力のつり合い式がなぜ F+n=mg になるのかを、力の整理方法に焦点を当てて解説します。
まず大前提:力のつり合いは誰について書くのか
運動方程式やつり合いの式を書くときは、必ず「どの物体について考えているか」を明確にします。この問題では「人」「板と荷物」「全体」など、複数の対象に分けて考えることができますが、模範解答では「人」に注目しています。
したがって式に入れるのは「人に働く力」だけであり、人が他の物体に及ぼす力は原則として登場しません。
人に実際に働いている力を整理する
人を自由物体として考えると、鉛直方向に働く力は次の3つです。
- 重力:鉛直下向きに mg
- 板から受ける垂直抗力:鉛直上向きに n
- ロープから受ける力:鉛直上向きに F
この「ロープから受ける力 F」は、人がロープを下向きに引いた結果として、ロープから返ってくる力です。つまり作用反作用の「反作用側」だけが、人の運動方程式に現れます。
なぜ「人がロープを引く下向きの力」は入らないのか
人がロープを鉛直下向きに引く力は、ロープに働く力であり、人自身に働く力ではありません。作用反作用の法則により、同じ大きさの力がロープから人へ上向きに作用しますが、式に入れるのはこの「人が受ける力」のみです。
この2つを同時に式へ入れてしまうと、「人に働かない力」を誤って含めてしまうことになり、二重カウントになります。
式 F+n=mg が意味するもの
人が等速または静止している状況では、鉛直方向の力の合計は0になります。そのため、人についてのつり合い条件は次の形になります。
上向きの力:F+n
=下向きの力:mg
これが模範解答で示されている F+n=mg の物理的意味です。作用反作用を無視しているのではなく、「どの物体に働く力か」を正しく選別した結果なのです。
よくある混乱と回避のコツ
この手の問題では「力を出すすべての行為」を式に入れたくなりますが、力学では「力を出す」と「力を受ける」は厳密に区別されます。自由物体図を描き、「その物体に向かって矢印が向いている力だけを書く」ことが最大のポイントです。
特に作用反作用は「別の物体に働く力のペア」であることを意識すると、自然と整理できるようになります。
まとめ:作用反作用は消えるのではなく場所が違う
F+n=mg に人がロープを引く下向きの力が含まれない理由は、それが「人に働く力ではない」からです。作用反作用は常に存在しますが、運動方程式では対象となる物体に働く力だけを使います。
力学問題で迷ったときは、まず「今、自分は誰について考えているのか」を問い直すことが、最も確実な解決策になります。


コメント