日本の研究開発政策をめぐっては、大学の法人化以降、研究環境の変化に強い懸念が示されてきました。一方で、半導体製造拠点として注目されるラピダスへの巨額投資が進められており、「この判断は本当に将来のためになるのか」と疑問を持つ声も少なくありません。本記事では、基礎研究と応用・産業政策のバランスという観点から、この問題を整理します。
大学法人化以降に起きた研究環境の変化
大学の法人化により、研究者は教育・事務・外部資金獲得に多くの時間を割かれるようになり、純粋な研究時間が減少したと指摘されています。特に短期間で成果が見えにくい基礎研究は評価されにくく、研究費も抑制される傾向が続いています。
実際、即効性のある産業化研究への大型予算が用意される一方、一般的な科研費など基礎研究向けの予算は限られており、「研究の土壌が痩せているのではないか」という不安が研究現場から聞かれます。
ラピダスとは何か、なぜ注目されているのか
ラピダスは、日本が最先端半導体製造能力を取り戻すことを目的に設立された企業で、北海道に新たな製造拠点を整備しています。経済安全保障やサプライチェーン強化の観点から、国が兆円規模の支援を行っている点が大きな特徴です。
過去に日本の半導体産業が国際競争で後れを取った経験もあり、「今度こそ失敗できない」という強い政治的・産業的意志が背景にあります。
基礎研究より産業投資を優先するリスク
ラピダスのような即効性のある国家プロジェクトは、短期的には雇用や技術力の回復につながる可能性があります。しかし、基礎研究が軽視され続けると、将来の技術の芽そのものが育たなくなるというリスクも伴います。
たとえば、ノーベル賞級の成果の多くは、当初は実用性が不明だった基礎研究から生まれています。目先の成果ばかりを追えば、長期的に大きな果実を生む可能性を自ら摘み取ってしまう恐れがあります。
「柿の種」と「おむすび」に例えられる政策判断
長い年月を経て実る基礎研究は、すぐには食べられない「柿の種」に例えられる一方、すぐ成果が出るプロジェクトは「目の前のおむすび」に例えられます。国家運営において両者のバランスが重要であるにもかかわらず、近年は後者に偏っているように感じられるのも无理はありません。
短期的な成功と長期的な知の蓄積をどう両立させるかは、日本の将来を左右する重要な課題です。
まとめ:ラピダスか基礎研究かではなく「両立」が鍵
ラピダスへの投資そのものが間違いだと言い切ることはできませんが、同時に大学や研究機関の基礎研究を支える予算と環境を充実させなければ、持続的な科学技術立国は成り立ちません。
重要なのは二者択一ではなく、長期的視野に立った資源配分です。将来振り返ったときに、「あの時、基礎研究を支えておいて良かった」と言える判断ができているかどうかが、今まさに問われています。


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