ケーブル敷設時に「許容電流」に対して「低減率0.7を掛けるべきか」「基底温度補正だけで良いか」は、現場でよく議論されるテーマです。本記事では、国内のケーブル許容電流規定と布設条件のルールを整理し、ラック上敷設や屋内暗渠布設時に低減率を使うべきかどうかを解説します。
許容電流と布設条件の基本 ― なぜ補正するのか
「許容電流」とは、ケーブルが過熱せずに安全に流せる最大の電流量のことです。ところが、ケーブルの並列敷設や密接した配置、布設環境によって熱の放散が悪くなると、同じ電流でも温度上昇が大きくなり、発熱や劣化の危険が高まります。[参照]
そのため、標準の「1条・周囲温度30℃・十分な放熱条件」とは異なる状況では、補正係数を掛けて許容電流を下げる必要があります。代表的な補正として「温度補正」と「布設条件による低減率」があります。[参照]
気中・暗渠での多条/ラック敷設 ― 低減率0.7を掛ける根拠
国内のケーブル許容電流の技術資料では、複数条のケーブルをラックやダクトに密に束ねて敷設する場合、「気中および暗渠多条布設の場合の低減率表」に基づいて許容電流を補正するよう定められています。[参照][参照]
たとえばラック上に単心ケーブルを1段で敷き込んだ場合、低減率として約0.70が適用されることがあります。つまり、許容電流表の値の約7割に実効許容電流を設定するのが一般的です。[参照]
基底温度補正だけでは不十分 ― 温度と敷設条件は別の補正軸
もちろん、周囲温度が設計基準と異なる場合は温度補正係数を掛ける必要があります。ただし、温度補正は“ ambient temperature(周囲温度)”に対する補正であり、ケーブル同士の密集や放熱条件の悪化による問題とは別の次元です。両方の補正が必要な場合も多くあります。[参照]
つまり、「気中・暗渠多条敷設」の条件であれば、たとえ温度補正を行っていても、低減率の適用を怠るのは安全性・規定遵守の観点から好ましくありません。
実例:200 mm²ケーブル(例:CVD200sq)をラック+暗渠で敷設する場合
仮に製造元の許容電流表で「1条・標準条件下で X A」が示されていたとします。このケーブルを屋根上ケーブルラックで20 m、さらに屋内暗渠ラックで200 m敷設する場合は、以下のように扱うのが基本です。
- まず、標準許容電流値に対して、ラックに束ねて敷設するなら低減率 ≈ 0.7 を掛ける。
- さらに、暗渠・室内などの温度環境が基準温度と異なれば、別途温度補正係数を掛ける。
このように、単に温度補正だけではなく、【布設条件と温度条件の両面から】補正を行うことで、安全かつ規定に沿った設計となります。
なぜ“0.7だけ”か“補正不要”という考えが出るか ― 勘違いの原因
現場で「基底温度だけ考えればよい」と言われることがあるのは、「許容電流表は温度補正だけ考えたもの」という誤認からです。しかし、許容電流値はあくまで“放熱条件や敷設条件が規定通り”という前提での値であり、密集敷設やラック・ダクトなどでは別の補正が要求されます。
特に大断面ケーブルや幹線級ケーブルでは、発熱量も大きく、放熱性が落ちることで温度上昇→絶縁劣化→最悪は発火、というリスクがあるため、低減率を考慮するのは重要です。[参照]
まとめ ― 安全のために「布設条件 × 温度」の両補正を基本にすべき
結論として、屋根上ケーブルラックや屋内暗渠ラックのように、複数条のケーブルを束ねる・密に敷設する場合は、許容電流に対して低減率(例:0.7)を掛けるのが国内の標準的な設計ルールです。
また、基底温度が規定と異なる場合には温度補正係数を重ねて適用するため、「低減率だけ」「温度補正だけ」では不十分であることが多いでしょう。この点を理解したうえで、安全かつ規格に準拠したケーブル設計を行うことが重要です。


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