溶液を冷却したときの「温度変化グラフ(冷却曲線)」を見て、「なぜ溶媒が凝固したら温度が漸減するのか」「共晶点で温度が一定になるのはなぜか」「その後また温度が下がるとき凝固は終わっているのか」と疑問を持つ人は多いでしょう。本記事では、溶液の凝固のしくみと冷却曲線の読み方を、熱力学・相図・実験事例の観点から整理して解説します。
溶媒 + 溶質で起こる「凝固点降下」の基本原理
純粋な溶媒では、液体→固体への相変化(凝固)は一定温度で起きます。一方、溶質を含む溶液では、溶媒だけが固化し、溶質は液相に残るため、溶液中の溶媒分の比率が減り、残る液の性質が変化します。このため、溶液の凝固は純溶媒より低い温度で起こるようになります ― これが「」です。[参照][参照]
つまり、溶質の存在が「溶媒の固化に対する抵抗」となり、溶液ではより低温まで冷やさなければ固化が進まないのです。[参照][参照]
冷却曲線で「右下がり」になる理由 ― 凝固が進むたびに濃縮する液相
溶液をゆっくり冷却すると、固体である溶媒(氷など)が析出し始めます。このとき液相に残っている溶液は、溶媒分が減り溶質の割合が相対的に高くなります。
溶質が濃くなると、凝固点降下の効果がより強く出るため、液相の温度はゆるやかに、しかし継続して低下してゆきます。このため、冷却曲線の「液–固共存域」は水平ではなく右下がりになるのが通常です。[参照][参照]
共晶点とは ― 固相+液相が一緒に固まる特別な条件
溶液の濃度や温度が特定の値(共晶組成・共晶温度)に達すると、溶媒と溶質それぞれ固まるのではなく、両者を含む混合物が同時に固化する「」に至ることがあります。共晶点では、液相と固相の平衡が成立するため、温度が一定になります。[参照]
この状態では、溶媒だけでなく溶質を含む混合物が固化するため、冷却曲線上「水平なプラトー(温度一定の部分)」として観測される場合があります。
「再び温度が下がるとき」 ― 凝固は終わったと考えてよいか?
共晶点以降、混合物の固化が完了すれば、液相はほとんど残っておらず、残っていた液があればそれが凍ることで、温度は再び下降を始めます。
つまり、再び温度が下がる部分では、「残存液の凍結」や「固体の冷却」による温度低下と考えられ、溶媒の凝固そのものはほぼ終了しているのが通常です。ただし、溶液の濃度や成分、冷却速度などによっては「不均一な固化」「液相残留」「混合結晶形成」など、複雑な挙動になることもあります。[参照]
なぜ「溶媒の凝固が妨げられる/遅れる」という説明では不十分か
質問にあったように「溶媒の凝固が溶質粒子に妨害されるから温度が下がり続ける」という説明は、「固化しにくさ」をイメージさせますが、実際には物理的な“妨害”というより「溶媒の化学ポテンシャルの低下」「液相の濃縮」「溶媒- 固相の平衡条件の変化」という熱力学の枠組みで説明されます。[参照][参照]
つまり、凝固が起きにくいというより、「凍りにくくなる温度」がそもそも低くなる、というのが正確な理解です。
まとめ ― 冷却曲線の形は成分と相平衡の反映
溶液の冷却曲線で温度が漸減するのは、溶媒の凝固にともない液相が濃縮され、凝固点降下が進むためであり、必ずしも“凝固が妨害されている”からではありません。
共晶点の水平部分は、液相と固相が平衡にある特別な状態を示し、その後の温度降下は固相や残り液の冷却/凝固に起因します。再び温度が下がるときは、基本的に新たな凝固はほぼ完了しており、冷却が進行しているだけと考えるのが妥当です。


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