夏目漱石をはじめとした明治・大正期の文学作品を読むと、現代では小さい「っ」を使う場面で大きい「つ」が表記されていることがあります。これは単なる癖ではなく、当時の日本語の表記ルールに基づいたもので、言語史を知るうえで非常に興味深い要素です。この記事では、当時の文学に見られる独特の仮名遣いが生まれた背景をわかりやすく解説します。
歴史的仮名遣いとは何か
夏目漱石の時代に広く用いられていたのが、いわゆる「歴史的仮名遣い」です。これは平安時代以降の古典日本語の音韻体系をもとにした表記法で、現代の発音とは必ずしも一致しない特徴があります。
例えば現代語では「きって」と書くところを、歴史的仮名遣いでは「きつて」と書くなど、発音と表記が一致していない部分が多数存在します。
大きい「つ」が使われていた理由
現代の小さい「っ」は、促音(つまる音)として発音を示すための視覚的な記号ですが、昔はこの促音を表記するための特別な小文字は存在していませんでした。代わりに、大きい「つ」をそのまま使っていたのです。
そのため、現代では「はっきり」と書く表現が、当時は「はつきり」と表記されていました。これは決して誤字ではなく、当時の正式な表記ルールに基づいたものです。
近代文学における表記の統一が進まなかった理由
明治・大正期は言語改革が進みつつあった時代であり、文部省による表記の統一が試みられていましたが、完全に定着するまでには時間がかかりました。新聞・雑誌・文学作品など、それぞれ独自の表記ルールを持っていたためです。
特に文学者は文体の美しさやリズムを重視し、当時の慣習に従いながら表現していたため、大きい「つ」などの旧仮名遣いが作品に強く残ることになりました。
具体例で比較してみる
例えば以下のような例が挙げられます。
● 現代:きって → 旧表記:きつて
● 現代:まって → 旧表記:まつて
こうした表記を見ると、現代の感覚では一見違和感がありますが、作者たちはこれを自然な表記として捉えていました。
戦後の国語改革と小さい「っ」の一般化
第二次世界大戦後、1946年に内閣が告示した「現代仮名遣い」によって表記が大きく見直され、小さい「っ」を含む仮名文字の使用が一般化されました。
これにより、促音を小さい「っ」で明確に示す表記が全国的に統一され、現在の日本語表記が確立したのです。
まとめ
昔の文学で大きい「つ」が使われているのは、当時の正式な表記法である「歴史的仮名遣い」に基づくもので、小さい「っ」がまだ一般化されていなかったためです。近代文学を読む際には、こうした表記の背景を理解することで作品をより深く味わうことができます。


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