「貧乏でも本人の努力次第でどうにでもなるのに甘えんな」という言葉には、しばしば「生存バイアス」が関わっていると言われます。このような考え方には、成功した人々の事例を強調し、努力をしても報われなかった多くの人々の事例を無視する傾向が見受けられます。今回は、この考え方について、なぜ生存バイアスが関わるのかを深掘りしていきます。
1. 生存バイアスとは
生存バイアスとは、成功した事例や目立つ事例に注目し、成功しなかった事例を無視する認知の偏りを指します。例えば、貧しい環境から努力して成功を収めた人々の事例は注目されますが、同じように努力したにもかかわらず成功しなかった人々の事例は見過ごされがちです。このような偏った見方が、物事を誤って判断させる原因となることがあります。
2. 「努力すれば報われる」という考え方
「努力すれば報われる」という考え方は、個人のモチベーションやポジティブな思考を促進するためには有効ですが、これが過度に強調されると、社会的な格差や機会の不平等を無視することになります。実際、多くの人々が努力しても報われない理由には、教育や社会的背景、健康問題、地域格差などの外部要因が影響しています。
「努力した結果成功した」という成功事例を強調するあまり、その背後にある社会的な障壁を見過ごすことは、無意識のうちに生存バイアスを助長してしまうのです。
3. 失敗や挫折を見逃さない
「甘えんな」と言いたくなる気持ちは理解できますが、それはしばしば個人の努力に過度に焦点を当てすぎた結果です。実際、多くの人が努力をしても成功できない理由には、個人の能力だけでなく、周囲の環境や運も関わっています。成功者が自分の成功を「努力」という個人の要因だけに帰属させることは、他者の失敗を社会的・環境的な要因と無関係にしてしまうことになります。
4. 自己奉仕バイアスとその影響
生存バイアスには、自己奉仕バイアスも関係しています。自己奉仕バイアスとは、成功した際にはその要因を自己の努力や能力に帰属させ、失敗した際には外部要因(環境や運など)を責任として挙げる心理的傾向です。このバイアスが働くと、他者の苦境に対して理解や共感を持ちにくくなり、社会的な格差を無視してしまうことがあります。
5. まとめ: より包括的な視点を持つことの重要性
「貧乏でも本人の努力次第でどうにでもなる」という考え方は、個人の努力に焦点を当てすぎるあまり、生存バイアスに陥ってしまう危険があります。成功者の事例を参考にすることは有益ですが、その一方で、多くの努力が報われなかった人々の存在や、社会的な障壁に目を向けることも重要です。
努力することは大切ですが、同時に社会の構造的な問題や個々の置かれている状況にも目を向けることで、より公平で包括的な社会の実現が可能となります。


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