谷崎潤一郎『鍵』における夫婦の日記の目的についての考察

谷崎潤一郎の小説『鍵』では、夫婦が交互に日記をつけるという独特の構成が取られています。この日記をつけることには、物語の進行において重要な意味があります。この記事では、その目的について深堀りしていきます。

1. 日記を通して明らかになる心情の変化

『鍵』における夫婦の各々の日記は、単なる出来事の記録ではなく、彼らの心情の変化を表現しています。日記を書くことで、夫婦の内面が他者に伝わることなく暴露され、物語の中でそれが重要な役割を果たします。

夫婦が日記を通じて自らの欲望や不安を記すことは、セクシュアリティの問題やプライバシーの境界線を示すことになります。この点において、日記は非常に個人的でありながらも、同時に他者の目に触れることを意図的にしている点が興味深いです。

日記を書く行為には、夫婦間の信頼関係と、それに対する裏切りの可能性が内包されています。日記という形で自己の考えや行動を記録することが、相手に対する完全な透明性を求める一方で、逆に疑念や誤解を生むこともあります。

この日記の構成は、読者に対して強い心理的影響を与えます。物語が進行するにつれ、読者は登場人物の心情の微細な変化を追い、日記を通して彼らの内面的な世界に没入することになります。

『鍵』における夫婦の日記は、物語の進行だけでなく、登場人物の内面の深層を暴露する重要な役割を担っています。日記をつけることは、単なる記録行為ではなく、夫婦の心情や信頼関係、さらにはセクシュアリティやプライバシーの問題を考察するための重要なツールとなっています。