ヘルマン・ラウシュニングの著作『ニヒリズムの革命』では、ナチスがニヒリズムに深く関わっていることが示唆されています。ラウシュニングは、ナチスのイデオロギーがニヒリズムの一形態であり、それが革命的な変革をもたらすと考えていたとされています。しかし、このニヒリズム観は、ナチス自身が民主主義をニヒリズムの象徴として攻撃するという点で矛盾を抱えています。ナチスが抱えていたニヒリズムに関する見解の対立について、詳しく考察してみましょう。
ヘルマン・ラウシュニングの『ニヒリズムの革命』の主張
『ニヒリズムの革命』において、ラウシュニングはナチスの政治的・社会的イデオロギーが、ニヒリズム的な要素に根ざしていることを強調しています。ニヒリズムとは、伝統的な価値観や信念が崩壊し、無意味な世界観が広がることを意味します。ラウシュニングは、ナチスの目指す世界がこうした価値観の崩壊から新たな秩序を築くものであり、革命的な変革を推進していると見なしました。
彼は、ナチスが現代社会の価値を徹底的に破壊し、その空白を埋めることで新しい秩序を築こうとしていたと述べています。しかし、ナチスのこのアプローチは、古代の価値観や伝統的な宗教観を完全に否定し、独自の新たな価値体系を構築しようとする点で、ラウシュニングの観点からは深いニヒリズム的側面を持っているとされます。
ナチスのニヒリズムに対する批判と矛盾
興味深い点は、ナチスが自らのイデオロギーにおいてニヒリズムを批判し、民主主義をまさにそのニヒリズムの象徴として位置付けていたことです。ナチスは民主主義を無秩序や価値の崩壊として見なし、国家の統制を強調しました。民主主義が個々人の自由と選挙による価値観の表明に基づいて成り立っていることから、ナチスはこれを無意味な選択肢とし、その代替として一党独裁体制を提唱しました。
しかし、ナチス自身の政治体制が実際には「新しい価値」を作り出す過程において、ラウシュニングが指摘するようなニヒリズム的要素が深く絡んでいることも否定できません。ナチスのイデオロギーには、確立された価値観を否定し、時に強制的に新しい価値を植え付ける動きがあったため、この点においてナチスとラウシュニングのニヒリズム観の対立が生じることになります。
ニヒリズムと革命の関係
ラウシュニングが描いた革命的ニヒリズムの概念は、単に無秩序や破壊を伴うものではなく、既存の秩序を打破した後に新たな秩序を構築しようとする試みを含んでいます。ナチスの「革命的変革」の背後にある思想がまさにこのニヒリズム的要素であり、社会秩序を根本的に揺るがし、新たな「価値観」を創造しようとする力が働いていました。
ここで重要なのは、この「革命」がもたらすものが、単なる破壊的なニヒリズムではなく、新しい社会秩序を生み出すための力であるという点です。ナチスの「革命」は、従来の社会価値を壊し、新しい価値観を押し付けるという側面を強調する一方、同時に古典的な秩序への挑戦でもあったと言えます。
結論:ナチスとニヒリズム観の対立
ラウシュニングとナチスのニヒリズム観には深い対立が存在します。ラウシュニングがナチスをニヒリズムの革命的要素として位置付けたのに対し、ナチスは民主主義をニヒリズムの象徴として批判しました。両者の視点が異なるのは、どのようにニヒリズムを捉え、それをどのように活用するかという点にあります。
ナチスのニヒリズム観は単なる破壊的な力ではなく、統制を強化するための手段として位置付けられ、ラウシュニングの視点からは、その対立的な側面が浮き彫りになります。このように、ニヒリズム観を巡る見解の対立は、ナチスの政治哲学とその革命的な目標に対する理解を深める上で重要なポイントとなるでしょう。
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