トマス・アキナスの『De ente et essentia』と『De esse et essentia』の邦訳の実情

哲学、倫理

トマス・アキナスの著作『De ente et essentia』と『De esse et essentia』は、共に彼の形而上学的な考察を示す重要な作品ですが、実際に日本語に翻訳されているのは『De ente et essentia』の方のみで、『De esse et essentia』は未訳という状況が続いています。この違いの背景には、翻訳の難易度や学術的な需要、そしてアキナスの哲学に対する関心の違いがあると考えられます。本記事では、この問題を掘り下げて解説し、なぜこのような翻訳の実情があるのかを探ります。

『De ente et essentia』と『De esse et essentia』の内容と意義

まず、トマス・アキナスの『De ente et essentia』(存在と本質について)と『De esse et essentia』(存在と存在者について)は、どちらも形而上学の分野で非常に重要な著作です。『De ente et essentia』では、存在とは何か、本質とは何かという問題を扱い、物事がどのように存在し、どのように分類されるのかを論じています。一方、『De esse et essentia』は、より深く存在そのものを探求し、存在の本質や存在することそのものの性質について考察しています。

これらの著作は、アリストテレス哲学の影響を受けつつ、アキナス独自の形而上学的体系を構築するための重要な基盤となっています。『De ente et essentia』はアキナスの形而上学を理解する上で不可欠なテキストとされ、しばしば学生や研究者に読みやすく翻訳されています。

邦訳された『De ente et essentia』と未訳の『De esse et essentia』

『De ente et essentia』は、日本語に翻訳されており、多くの学術書や大学の授業でも取り扱われることが多いため、比較的容易にアクセスできるテキストです。これに対して、『De esse et essentia』は未訳のままであり、アキナスの形而上学を深く学びたい学者にとっては重要な課題となっています。

翻訳されていない理由としては、いくつかの要因が考えられます。まず、アキナスの『De esse et essentia』は非常に抽象的で難解な内容が多く、現代の読者にとっては理解が難しい部分が多いことが挙げられます。また、この著作は特定の学術的なニーズに応じた研究のために読むべきものであり、一般的な興味を持つ読者にとっては必ずしも必要なテキストではないため、翻訳の需要が少ないという側面もあります。

アキナスの哲学とその影響

アキナスの哲学は、キリスト教神学の発展において非常に大きな影響を与えました。特に『De ente et essentia』は、存在論的な問いに対する彼の見解を示す重要なテキストとして、多くの後世の哲学者や神学者に影響を与えています。

『De esse et essentia』もまた、アキナスの哲学における深遠な問いを扱った作品であり、存在そのものの本質に関する議論は、近代哲学における多くの議論に影響を与えました。しかし、これらの思想は非常に専門的であるため、特定の学術的な環境での需要が高い一方で、一般向けの翻訳がなかなか進まないという現実があります。

なぜ『De esse et essentia』の邦訳が進まないのか

『De esse et essentia』が邦訳されない主な理由は、その内容の抽象度の高さと、学術的な関心が限られていることにあります。アキナスのこの著作は、存在という非常に難解なテーマに踏み込んでおり、翻訳にあたっては哲学的な正確さが求められます。

また、アキナスの言語や論理が現代の読者にとって理解しやすいものではなく、専門的な知識を持つ読者でないと読み解くのが難しいため、翻訳作業に対する需要が限られているのも事実です。加えて、アキナスの思想は非常に深いため、専門的な注釈や解説がないと理解しきれない部分も多く、そのために翻訳が進んでいないという側面もあります。

まとめ

『De ente et essentia』は日本語に翻訳されており、アキナスの形而上学を学ぶための重要な資料となっていますが、『De esse et essentia』は未訳のままであり、その深遠な内容が翻訳を難しくしています。アキナスの哲学に対する関心が高まり、専門的な翻訳のニーズが増すことで、将来的に『De esse et essentia』の邦訳が進むことを期待しています。

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