フィクション作品には、電気を使った「一瞬で人を絶命させる装置」が登場することがあります。中でも、学校や自宅といった日常空間に設置された即席の“電気椅子”のようなものが描かれると、視聴者は「そんな装置が本当に実現可能なのか?」という疑問を抱くかもしれません。この記事では、電気と人体の関係を中心に、フィクションに登場するこの種の装置のリアリティを物理・生理学の視点から考察します。
電気が人体に及ぼす影響とは?
人体は水分と塩分を多く含んでおり、導電性があります。電気が体内を通過すると、心臓の停止(心室細動)や筋肉の硬直、神経の損傷など、さまざまな影響を及ぼします。
一般的に、100mA(ミリアンペア)以上の電流が心臓に流れると致命的とされており、電圧が高く、電流が心臓を通る経路で流れた場合は、数秒以内に死亡する可能性があります。
電気椅子の仕組みとフィクションとの違い
実在する電気椅子は、皮膚と電極の接触を良くするために、頭部や足などに導電性のジェルを塗布し、水で濡らしたスポンジを使用します。これにより電気が効率的に流れ、致命的なダメージを与えることができます。
映画『グリーンマイル』で水を使わずに通電させた結果、被害者の体が焦げてひどい臭いが発生する描写は、現実の知識に基づいた演出です。つまり、水分がなければ電流がうまく流れず、電気エネルギーが熱エネルギーとなって人体を“焼く”結果になります。
「一瞬で死に至る」即席電気椅子は物理的に可能か
仮に家庭用の電源(日本ではAC100V)を使用した場合、それだけで即死させるのは困難です。理由は、電流量や電圧、通電時間、電極の配置が適切でないと致命的な結果になりにくいためです。
しかし、高電圧・高電流の商業用電源(例:200V以上)を利用し、適切に皮膚と電極を接触させ、心臓を経由する通電ルートを構成した場合、即死に近い状態を引き起こすことは理論上不可能ではありません。ただし、相当な知識と準備、そして危険な機材が必要です。
学校が停電したという描写の意味
ドラマ内で装置起動と同時に学校が停電したという点は、高出力装置によってブレーカーが作動した、あるいは回路がショートした可能性を示唆しています。大電流が一気に流れると、漏電遮断器や過電流保護装置が作動し、施設全体が停電することもあり得ます。
この描写は、フィクションとしてはリアリティを感じさせるポイントでもありますが、一般的な施設にある電源容量で一瞬のうちに即死レベルの電圧を供給するには限界があります。
人体に損傷痕が残らない“静かな死”は可能か
即死したにもかかわらず、肉が焼けた臭いや焦げ跡がないという点は、現実的には非常に難しい状況です。高電圧を一気に通電すれば、たとえ即死であっても、電流の通過部位では熱が発生し、皮膚に痕が残る可能性が高いです。
そのため、「即死+無臭+無傷」はフィクションとしての演出と考えるのが自然です。現実には、通電によって火傷や痕跡が生じることがほとんどです。
まとめ:現実の電気とフィクションの演出には隔たりがある
ドラマや映画に登場する“簡易電気椅子”のような装置は、物理的・工学的な条件を整えれば部分的に再現可能な面もありますが、「即死・無臭・無痕」という描写は現実離れしています。
電気が人体に与える影響は非常に大きく、わずかな誤差で結果が大きく変わるため、リアルな再現には高度な電気工学の知識と設備が不可欠です。フィクションとしての面白さはあっても、現実の物理法則を超える描写が含まれていることを理解したうえで楽しむのが良いでしょう。
コメント